第56幕
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団子屋へと帰っている道中、胸焼けを起こしたおじさんが苦しそうに呻いた。
『大丈夫?飲み物買ってこようか?』
「大丈夫だよ。ちょっとすれば治るから」
「いつも団子食ってるんだから胸焼けなんて今更だろう」
『団子の甘さと生クリームの甘さじゃ違うだろ』
「甘いもんには変わんねぇよ」
普段から甘いものばかり食べている銀時はケロリとした顔をしている。パフェに乗っかっていた果物はほとんど海の皿に移され、銀時は残った生クリームを食べていた。アイスもあったが生クリームの方が量が多かったはずだ。それなのに胸焼けも胃もたれもしていない。
『ご飯にあずきを乗せるくらいだから銀時にとってあのパフェは朝飯前ってことか』
「なーに?」
『なんでもない』
これでは糖尿病が進行しそうだ。そこら辺の人達に比べたら筋肉量や活動量は多いかもしれないが、それに比例して食べる量も増える。毎日あずきご飯を食べているわけではないだろうけど、そろそろ甘いものは控えた方がいい。糖尿病は進行すると失明や人体の壊死に繋がる。
「おっ、客が来てるぞ。良かったな」
『客?』
どうやって銀時の食事を見直そうかと考えていた海の目に映った人物。
団子屋に座っているその人物はどうやら天人らしい。天人が団子屋に来ているなんてとても珍しい。彼らは古臭いものを嫌い、新しいものに固執する。視線の先にいるような天人は特に。
『派手な着物だな……』
「あぁやって着飾らないとやっていけねぇんじゃねぇの?デジタル派はさ」
少し離れた所から銀時と店に来ている天人を眺める。店から出てきた店主の娘さんがにこやかに天人に注文を聞く。そんな彼女を天人は見下すように鼻で笑った。
「海、眉間にシワ寄ってるぞ」
『天人ってのはなんで傲慢な性格な奴が多いんだか』
「さあ?親の躾がなってないんじゃねぇの?」
全ての天人が当てはまるわけではないのは知っている。神楽も天人だがあんなに傲慢な性格はしていない。子供だからというのもあるだろうけど、きっと彼女の親がそうならないように育てたのだろう。
『ある意味親の顔が見てみたいな』
「親?誰の?」
『神楽の』
「なんで神楽??」
『あの子は良い子だろ。親御さんがきちんとした人だったんだろうなって』
「性格なんて親の影響だけじゃないでしょ。周りの人間の影響だってあるんだからよ」
『一番見本にしちゃいけない大人がそばに居るけどな』
「それ誰のこと?」
そんなの言わずとも分かっていることだろう。神楽の近くにいる大人は銀時くらいしかいないのだから。
『そんなことより……おじさん、あいつは誰なんだ?』
店にいる天人は娘さんに対して馴れ馴れしい態度を取り続けているのに娘さんは困るどころか手馴れているように見える。あの天人とは顔見知りなのだろう。
「あの人は餡泥牝堕の酔唾。あの店の旦那だよ」
おじさんが指さしたのは先程まで海たちが居た店。
『なんであの店の人間が?』
店主は海の問いを聞く前に自分の店へと戻っていく。酔唾に擦り寄るように話しかける様はなんだか居た堪れない。何故そんなことをする必要があるのかと疑問に思っていたらその答えはすぐに分かった。
「だから言ったでしょう?大人しくこの店を私に売り払って隠居しなさいって」
『立ち退けって言われてたのか』
「みたいだな」
団子屋を潰してその土地に同じ店を建てるつもりなのだろう。ここは人の往来が比較的多く、飲食店を作ればいつでも客が入る立地のいい場所だ。それに天人がやっているあの甘味処は人が入りやすい。女性は特に興味を惹かれるだろう。
『店を増やそうとする商売意識は感心するが、やり方がなってないな』
自分の店を繁栄させるために他の店を潰す。似たような店が近くにあればそうなるのも自然な流れになってしまうが、あの天人がやっていることは高圧的すぎる。
団子屋の店主に対して嫌がらせや脅迫をしていたら捕まえることが出来るのに。
「お前、眉間にすっごいシワよってるけど」
『その言葉そっくりそのまま返す』
天人の言動に銀時も苛立ちを感じていたのか眉間に深いシワを作っていた。海たちは団子屋の店員でなければ家族でもない。あそこの間に入って天人を追い払うことは出来ないのだ。
出来ることなら今すぐ天人を追い払って二度と来れないようにしたいのに。
「あれどうする?」
『どうするもこうするもないだろ』
注文した団子に手をつけずに立ち去ろうとする天人の背を銀時と共に睨む。
「海、甘いものどれくらい食べれる?」
『さあな。試したことないから。でも、おじさんの作る団子は美味いからいくらでも食べられるんじゃないか?』
「じゃあ決まりだな」
ニヤッと笑う銀時に海も口元を緩めた。
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