第75幕
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もうどうすることも出来ない。土方を庇うにしても伊東が言ったことは全て本当のことだから反論もできない。海が言ったところで全て言い訳になってしまう恐れがある。そうなると安易に発言出来なかった。
『(どうするよこれ……つか、なんで俺がこんな針のむしろみたいになってんだよ)』
元はと言えば土方の言動に問題があった訳で。別に自分が何かをしたわけじゃない。だからこんなに悩むことは無いのだが。
これは本当に偶然起きたことなのか?そう思うにはあまりにもできすぎている気がしてならない。土方を排除したいと思っている伊東からしたらこんな好都合なことは無いだろう。
このまま土方を真選組から追放し、伊東はその穴埋めとして副長の座につく。そのあとは?副長補佐である海はどうなるのか。
これは至極面倒なことになる。
「海、トシは……」
不安げに海を見る近藤に何を言えるだろうか。かといって俯いているだけでは何も進まない。とりあえず今は副長補佐としてできる限りのことをしようと顔を上げた。
『近藤さん、土方が落ち着くまでの間は俺が副長の仕事を──』
担うと言いかけたところで会議室の襖が誰かによってぶち開けられる。転がり込むようにして入ってきたのは土方本人で、その手には焼きそばパンとマンガ雑誌。
皆が呆気に取られている中、総悟だけは口元を緩ませている。伊東に目配せをしているところを見ると、何か計画をしているようだ。
『(このクソガキ今度は何を考えてんだ)』
「トシ……」
「何をやっているんだ君は」
黙ったまま動かない土方に伊東は詰め寄る。近藤も土方の登場に何も言えず固まってしまった。
『──くれ』
「海……?」
「何か言ったかい?桜樹君」
『待ってくれ』
海の一言に皆は静まる。
座り込んでいる土方の横に膝をつき、近藤に向かって頭を下げる。
『副長の土方 十四郎の非礼はその部下である俺の管理不行き届きのせいだ』
「海……お前ッ」
「海ッ!!」
驚く土方と近藤の前に伊東が身を乗り出す。
「桜樹君、顔を上げたまえ。君のせいという訳では無いだろう。彼の行い全てを君が管理することなんて不可能なのだから」
『それでもだ。俺はこいつのすぐ近くにいたのに止めることも出来なかった。それで副長補佐なんて名乗れれない』
だから補佐の座を下りる。そう言い放った海に伊東は渋い顔で呟く。
「君はそんなことをしてまで彼を庇うというのか」
『庇ってるわけじゃない。これは俺のルールだ』
このまま副長補佐につき続けたら土方を見捨てることになる。それは裏切ることと同じことではないか。
土方に背を向けてまで副長補佐に居続ける理由なんてない。仲間を裏切るくらいならこんな役職自ら手放してやる。
支給されていた上着とスカーフを脱いで綺麗に畳み、近藤の手へと返す。
「海……どうして」
『すみません。やっぱ俺には似合わないみたいだ。もっと他に適任者がいるはず』
上着を中々受け取ろうとしない近藤に苦笑いを浮かべ、そっと側に置いておいた。
『ということなので、今日からはまた普通の平隊士として扱ってください』
会議室にいる人間に頭を下げてそっと退出した。
『これである程度動ければいいんだが』
調べ物をするには役職付きは動きづらい。しかも今は伊東の目もある。山崎顔負けの優秀な部下が常に目を光らせているのだ。これでは外出するのも気を遣わなくてはならない。
土方や海の動向を探って今の立場から引きずり下ろす算段でも企てていたのだろう。土方の方は何もせずとも自滅したが、海はそうはいかなかった。
だから総悟を使ったのかもしれない。会議中に土方がやらかせば、その責を海が背負うだろうと予想して。そしてまんまと海は補佐から下りることを選んだ。
『上手くいったと思ってるだろうが……見え透いた罠に嵌ってやったんだ。感謝しろよクソ野郎ども』
伊東はどうもきな臭い。それを調べるためには副長補佐の任を解く必要がある。これで制限なく動けるのだ。
伊東は選択を誤った。手元に置いて見張れば良かったものを。
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