第75幕
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「遅いなトシのヤツ……もうとっくに時間は過ぎている……大事な会議だというのに。なぁ、海。トシから何か聞いていないか?今日どうしても遅れてしまうとか……」
無言で首を横に振って聞いていないと返す。近藤は海のことを期待の眼差しで見ていたが、その目はまた不安げな目へと戻ってしまった。
『(どこにいったんだよ……あのクソマヨラー)』
膝の上の拳を強く握りしめる。またあいつは局中法度を破ろうとしているのだ。
「近藤さん、いい機会だ。僕はちょうど彼のことを議題に出すつもりでいた」
伊東は立ち上がって手元の資料を見ながら話し始める。これまでの土方の行いについて糾弾するつもりなのだろう。
「最近の彼の行動については既に諸君も聞き及んでいるだろう。自ら隊士たちに局中法度という厳しい規律を課しながら、彼はこれを破ること十数度。現に今も重役会議に遅刻するという失態を犯している。これを野放しにしていては隊士たちに示しがつかない」
伊東が言っていることは正論だ。土方が自分で作った局中法度を守れないなど話にならない。副長が約束事を守らないなんてなれば、下のものたちの気も緩み始める。
それでも何か理由があったのだと反論出来たら良かったのだが、どれも反論の余地はない。近藤がどれだけ伊東に掛け合ったとしても、土方の規律違反は見逃せたものではなかった。
「先生待ってくれ!トシのことだ、何かなみなみならぬ事情があって──」
「僕は今回の件のことだけを言っているのではない。もちろん彼がこれまで真選組でどらだけ功績を上げてきたか、そのことも重々承知している。だからこそあえて苦言を呈したい。真選組の象徴ともいうべき彼が法度を軽んずれば自然、隊士たちもそれにならう。規律を失った群狼は烏合の衆と成り果てる」
だからこそ土方に厳しい処罰を与えるべきなのだと強く近藤さんに迫る。
それでも土方を庇おうとする近藤に悔しさが募る。少しでも時間を稼げないかと思って顔を上げた先、伊東と目が合って嫌な汗が滲んだ。
「近藤さん、あのような人間野放しにしていたら真選組は守れない。つい、先日そのせいで彼は攘夷浪士に組み伏せられて殺されそうになっていたのを貴方はご存知でしたか?」
「な……海?本当なのか……?」
あの日のことは近藤には話していない。ただ、伊東に助けられたとだけ言った。周りの隊士たちも海が攘夷浪士に組み伏せられていたことまでは知らず、伊東の言葉で会議室はどよめいた。
「桜樹君、もう彼を庇う必要なんてないんだ。君が危ない目に陥っていたのは事実なのだから」
「海、本当のことなのか?」
みなの視線が突き刺さる中、海は頭を横に振ることも縦に振ることも出来ずに唇を噛み締めて俯いた。
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