第75幕
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からんっとグラスの中の氷が音を鳴らす。
目の前に座る総悟は頼んだ飲み物をストローで飲み下していく。
「……てな具合だ。全てはこの刀を手に入れてからおかしくなっちまった。どうやら俺はホントにこいつに呪われちまったらしい」
今まで起きたことを総悟に包み隠さず話した。会議中で携帯を鳴らし通話したこと、拷問中の浪士と仲良く話しをしていたことなど。
ここ最近、自分の言動がおかしいことに気づいている。それなのにやめられない。自分の身体が自分のものでは無いような感覚に陥るのだ。
記憶はあっても意識は誰かに乗っ取られたかのように勝手に動く。制御なんて出来やしないのだ。
これはどうにかしなくてはいけない。そう思って総悟に相談しているのに、相手はへらへらと笑うばかりで解決策を出そうともしない。相談する相手が間違っているのは百も承知だ。
だが以前、海と自分は伊東の部下に立ち聞きされていた。海も同じようなことをしていたから文句は言えないが、立ち聞きをしていた理由が違うのは明らかだ。
たまたまその場に居合わせた海と、わざわざ部屋から出てきて自分たちの話を聞いていたことでは訳が違う。
海と話をしていたらまた聞かれる恐れがある。その為、相談役に総悟を選んだのだが……これはハズレのようだ。
「だから言うのヤだったんだよ、信じてねぇだろお前。信じるわきゃないだろうお前」
まともな相談が出来るとは思ってなかった。それでも少しくらいは何か言ってくれるかと期待していたのだ。鍛冶屋から拝借してきたこの刀について何か調べてくれたりとか。
「ふと気づくと勝手に別人格と入れ替わってやがる。いや、ありゃ別人格なんかじゃねぇ。人が誰しも持っているヘタれた部分がこいつによって目覚め始めてるんだ」
「土方さん、ヘタレを刀のせいにしちゃいけねぇや。土方さんはもともとヘタレでしょう。海さんに告白もできねぇで、万事屋の旦那に取られてるくらいなんですから」
「そうッスよね。俺なんてもともとこんな……」
「あらら……こいつはホントに調子がおかしいや」
ハッと気づいて口元を手で覆う。気を抜けばすぐに出てくるこの人格。緩く威厳のなくなった声で発せられた言葉に奥歯を噛み締める。
「じゃ、んな妖刀さっさと捨てちまえばいいじゃないですかい」
「そいつができれば苦労しちゃいねぇ。気がついたら厠や風呂にまで持っていっちまう始末だ。剥がそうにも剥がれねぇ。鍛冶屋のじじいはこんな時に限って居がらねぇし」
「するってぇとなんですかい。近藤さんとケンカしたのもそいつのせいだと?」
近藤と喧嘩した時のことは覚えている。おかしな言動について心配されていたのだ。その時に伊東のことも相談しようと思っていたのだが、妖刀によって引き出されてしまった人格が土方の意識をねじ曲げてしまった。
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