第74幕
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「彼は新しく入った隊士だと聞きましたよ。しかも桜樹君の弟さんだとか」
『まだ至らぬ点が多いですが、隊士としては中々の腕の者です』
「そのようだね。最年少だそうじゃないか。子供が真選組に入ったと聞いた時は驚いたが……君の弟であれば心配はなさそうだね」
『おや、心配と申されますと?』
伊東は苦笑いを浮かべてメガネの位置をずらす。
「桜樹くん、君いつもそういう話し方をしているのかい?」
『違いますが?』
「なら普段通りの話し方にしてもらえると有難いよ。なんだか壁を感じてね」
わざとこうしているのだと言ったら伊東はどんな顔をするんだろうか。
壁も何も、伊東と話をしたくないから部屋にこもっていたというのに。まさか向こうから来ると思わないじゃないか。
内心では舌打ちをしつつ、相手の望むとおりの話し方へと変えた。
『それで?要件はなんだ』
「彼、君の弟さんについては調べさせてもらったよ。彼のご両親は捕まっているようだね」
やはりそこをついてくるか。分かってはいたことだが、こうも直接言われると腹立たしく感じる。
『それが何か?親は親であって子は違う。親の罪咎がその子供にも当てはまると言いたいのか?』
「そうではないよ。ただ、懸念点は排除しておくべきだと思うんだ。真選組の未来を思うなら当然の事だろう?」
『言いたいことはわかる。確かに"西ノ宮"の姓は悪名高くなったからな』
「彼が真選組に入ったことで我々への信頼が失墜するようなことが起きたら……桜樹くん、君はどうするつもりだい?」
『有り得ない、とは言いきれないが真選組の信頼が落ちるなんてことは起きない』
「なぜそう言い切れる?」
その為にどれだけ自分が走り回ったと思っているんだ。
事件の後、西ノ宮の被害にあった人全員に頭を下げに行った。家族を取り戻した者もいれば、もうこの先永遠に戻って来ない人もいる。そんな人たちに海は頭を下げに行ったのだ。
今、ここに五体満足で立っているのも不思議なくらいだ。腕か足か、それとも両方無くす覚悟で家に行ったのに。
海はこうして無事に生きている。自分を殺さない代わりにと彼らはとある条件を言ってきた。それは海も望んでいたことだが、朔夜のことを考えるとすぐに決断していいものなのか悩んでしまう。
『それはお前に言うことじゃない。それよりこんな事で呼び出したのか?随分と暇そうにしてるじゃないか。それなら見廻りにでも行ってきて欲しいんだが?』
「忙しいところ呼び出して済まないね。だが、僕にとっては重要なことだったんだよ。気になることは全て潰しておかなければ気が済まない質でね。今もこうして……」
会議室の前で足を止めたかと思えば、中から携帯の着信音が鳴り響いてきた。誰がこんなところで、と会議室の戸を引いて中を見ると隊士たちの前で堂々と電話している土方の姿。
「不穏分子は排除すべきだろう?彼は今後、真選組の規律を乱す可能性がある。君はそんな人間を見過ごせるのか?部下のことも守れぬ上司など……僕は必要ないと思うんだが」
呆然と土方を見ている海の横で伊東は囁く。その顔が不気味な笑みで歪んでいることにも気づかなかった。
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