第74幕
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昼間の疲れが出てきたのか欠伸が止まらず、ひっきりなしに大口を開けて縁側をとぼとぼ歩く。部屋にはまだ書類がいくつか残っており、それらを終わらせないと今日はまだ眠れない。
風呂に入ってスッキリしてから書類に手をつけるか、それともこのまま部屋に戻ってやり切ってしまうかを悩んでいたところで話し声が聞こえてきた。
「土方君、君に聞きたいことがあった」
曲がり角の先に伊東の声。思わず壁を背にして耳をそばだててしまった。
「奇遇だな、俺もだ」
伊東と土方が一緒にいるなんて珍しいこともあるものだ。
土方も海と同じく伊東を毛嫌いしている節がある。だから先程の祝宴でも一切話すことなく席を立っていた。
それは土方だけでなく、伊東の方も同じで──
「君は僕のこと嫌いだろう?」
「お前は俺の事嫌いだろ?」
「近藤さんに気に入られ、新参者でありながら君の地位を脅かすまでスピード出世する僕が目障りでしかたないんだろう?」
「それはあんただ。さっさと出世したいのに上にいつまでもどっかり座ってる俺が目障りでしかたあるめぇよ」
「ふっ、邪推だ。土方君、僕はそんなこと考えちゃいない」
「良かったな。お互い誤解が解けたらしい」
「「いずれ殺してやるよ」」
ここまで言い切れるのも凄いと思う。真選組の一員である者に対して殺気を放つなんて。
出世欲があると何かと面倒なことになるみたいだ。自分は副長補佐以上に上り詰めることなど考えていないから関係ないだろう。
『あっ、違うな。副長補佐になりたいと思ったやつが出てきた時、俺の存在が邪魔になるのか』
「……てめぇ、こんなとこで何してやがる」
『……バレた』
「あ?」
思わず出てしまった言葉はここで盗み聞きをしていましたと白状しているようなものだった。土方は海の一言に顔を歪める。
「盗み聞きとはいい度胸じゃねぇか」
『仕方ないだろ。部屋に戻ろうと思ったらお前らが話してたんだよ。それとも話の途中で横を通りかかればよかったか?』
そんなことされたら気まずくて何も言えなくなるだろう。土方と伊東は周りに誰もいないと思って互いに本音を零したのだから。そこに海が割って入ったら空気が読めないやつと恨まれそうだ。
「だったら違う方から回れば良かっただろうが」
『なんでお前らの喧嘩に気をつかわなきゃいけないんだよ。道の真ん中でグチグチ言ってる土方が気をつかえ。喧嘩するなら外でやれよ』
「喧嘩じゃねぇ!」
『喧嘩だろ。しょうもない口喧嘩を──』
そこで口を閉じる。土方が首を傾げて何か言いたげに口を開くが、海は静かに止めた。
『明日提出する書類があるなら俺の部屋に持って来といてくれ』
「は?お前急に何を……」
『それと最近タバコの吸いすぎだ。朝買った箱出してみろ』
「は??」
タバコの箱を出すように促すと、土方は訳が分からないという顔で渋々胸ポケットから箱を取り出した。
『攘夷浪士にやられるよりも先にタバコで死にそうな気がするけどな』
(話を聞かれてる)
箱を受け取りながら土方の手に指で字を書く。
「!俺にはこいつが必要なんだよ」
(誰だ)
『それは薬と変わらないだろ。薬物中毒者みたいなこと言ってんじゃねぇよ』
(伊東の部下。お前、つけられてるな)
海がここで聞いていたことは気づかなかったはずだ。ということは、相手は土方の動向を探っていてたまたま海との会話を聞いているということ。
『気をつけろよ』
「ああ、お前もな」
ぼそりと呟いてその場を離れる。その時、話を聞いていたやつは部屋の中へとそっと身を隠した。
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