第56幕
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「しかしなんだね。焼肉屋に来てるアベックとこういうところに来てるアベックと。どっちがムンムンに見えるかって、こっちの方だね」
オヤジの話を聞きながらもぐもぐとリスのようにパンケーキを頬張っている海を見ていた。パンケーキだけだった皿には様々な果物が乗っかっている。
メニューを見ていたとき海は色鮮やかなパフェを眺めていた。てっきりそっちを選ぶのかと思っていたのに海はパフェではなくパンケーキを選んだ。変に手を出すよりも食べ慣れているものにしたのだろう。
「(ミントがダメとは初めて知ったな)」
パフェグラスに残っているのはチョコミントが付いているフルーツ。口に含めば果物の甘さとミントの爽やかな味が広がっていく。
出されれば何でも食べていたから好き嫌いはないと思っていた。ミントなんて歯磨き粉くらいでしか口に入れない。コンビニで売ってるアイスにチョコミントはあるが、自分で買おうとしなければ食べないものだ。海の様子からしてチョコミントを初めて食べたようだった。
「(ミントが苦手なのね)」
可愛らしい一面が見えて銀時は一人口元を緩ませる。
「そりゃあれだろ。焼肉屋の方はヤッちゃった感バリバリである意味安心して見てられるけど、こういうとこの方はこれから感とかが漂ってるからじゃねぇの?」
焼肉屋にいるカップルは長く付き合っているからこそ行けるような場所だ。新米のカップルがドギマギしながら行くようなところじゃない。初デートはやはり甘いものの方が良いだろう。ガツガツとした雰囲気より甘くて優しいところの方が女の子側からしても安心する。
「(初デートか。あれ、俺たちデートしたっけ?)」
思い返してみればデートというデートをした記憶が無い。
海を天人の船から助けた後に少しだけ二人で出かけた時があったが、あれはデートというには濃厚すぎてしまった。というか色々と急ぎすぎてしまった感がある。やっと片想いが報われたという安堵と興奮で海を抱いてしまった。
二人だけで出かけたことなんて……もしかしたら無いかもしれない。
思わずじっと海を見ていると、銀時の視線に気づいた海が顔を上げる。パンケーキを咀嚼しながら不思議そうに首を傾げたのを見てドキッと胸が跳ねた。
「(この子、わざとやってるわけじゃないよね?)」
自分がどれほど可愛らしい事をしているのか自覚があるのだろうか。いや、きっと無いだろう。でなければこんな事しないはずだ。
オヤジが隣で何か言っている気がするが全く耳に入ってこない。それよりも海を見ていることの方が大切だ。
「どうした?」
銀時の前にフォークが向けられる。その先には一切れのパンケーキ。メープルシロップが付いたそれはとても甘そうだ。
『ん』
「食っていいの?」
口の中にものが入っているのか海は一言も喋らずにただ頷く。
差し出されたパンケーキを口の中へと入れるとバターの風味が鼻を突き抜ける。下に絡みつくメープルシロップの甘さと「どう?美味しい?」と聞いてくる海の表情に銀時の頬は緩みまくった。
「甘くて美味いよ。ありがとな」
それは良かったというふうに海は微笑み、そしてまたフルーツへと夢中になった。
「(つら……なにこれ。今すぐ抱き潰したいんだけど)」
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