第55幕
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『瑠璃丸?』
「あぁ。将軍のペットのカブトムシが行方知れずらしい。そのペットを捜索して来いって上からのお達しだ」
朝食を済ませた海の元に土方から話があると副長室に呼び出された。副長補佐についてから初の仕事かと少しだけ緊張していたが、土方から言われた仕事は予想の斜め上のもの。
まさかカブトムシを探してこいなんて言われると思ってなかった。
『相手はカブトムシなんだよな?その大量のマヨネーズは何に使うんだ?』
どさりと地面に置かれたダンボールの中にはいくつものマヨネーズ。逃げ出したカブトムシがいるかもしれないという森までの道中に寄ったスーパーで買い込んだものだ。陳列棚に並べてあるものだけでは足りず、店員に箱ごと持ってきて欲しいと頼み込んだ。
スーパーにあった全てのマヨネーズを買い込んで一体何をするんだ。
「あ?カブトムシっていったらマヨネーズだろが」
『いや、マヨネーズじゃねぇよ。まだ近藤さんのはちみつの方が効果ありそうだろ』
カブトムシがマヨネーズを好んでいるなんて聞いたことがない。というか、マヨネーズが好きなのは土方だろう。
自分の好みを相手に……虫に押し付けるのは良くないと呟くと、土方はムッとした顔でこちらを見る。
「マヨネーズの良さが分からねぇなんてもったいねぇ」
『分かりたくもねぇよ。虫ってのは甘い蜜に吸い寄せられるもんだろ。マヨネーズに蜜は入ってないんだから来るわけがない』
「分からねぇだろう。マヨネーズの良さを分かってるカブトムシだったらどうすんだ」
『マヨネーズに吸い寄せられるのはお前だけで十分だ』
本当にこの上司はどうかしている。マヨネーズに対してどれだけの愛着があるというんだ。
『大体、こんな広い森でカブトムシ一匹探し出すなんて無謀過ぎるだろ。もういっその事適当にそこら辺のカブトムシ捕まえて渡せばいいんじゃないのか?』
「ダメだ。とっつぁんがそれをやったがお気に召さなかったらしい」
『わがまま将軍め』
カブトムシなんて全部同じに見えるのに。なんなら夏の夜にカサカサ動き回っている奴らと見た目は対して変わらない。そんな虫をペットとして側に置いているなんて不気味すぎる。
『土方、やっぱりはちみつの方が効果ありそうだぞ』
ちらりと近藤の方を見てみると虫がわらわらと寄っているのが見えた。全身に蜂蜜を塗りたくっている近藤に群がる黒い虫。あそこにカブトムシが混じっているのか確認しなくてはならないのだろうけど、海は静かに目を逸らした。
「ならお前も蜂蜜漬けになるか?」
『は?』
「そっちの方が早いって言うならやれよ」
『何でそうなるんだよ。普通に木に塗って待ってればいいだろ』
ずいっとはちみつの瓶を押し付けられて冷や汗が垂れる。
「海ィ……お前も近藤さんみたいにはちみつ塗れになれよ」
『正気か!?見ろよあれ!カブトムシ以外の虫が群がってるのが分からないのか?身体に蜂蜜塗るなんてふざけてるだろうが!』
ジト目で近づいてくる土方から察するに彼は今とてつもなく疲れているのが分かる。ここのところめんどくさい案件が多発していて頭を悩ませていた。海も出来る限り手伝ってはいたのだが、最終決定件は近藤に委ねられるので、土方は近藤の指示を待つことしか出来ない。
そんな状態で近藤がお妙のケツを追っかけていたなんて事が土方の耳に入ったもんだから彼のストレスは過去一のものになっている。その中での将軍のペット捜索。土方の疲労は限界を超えているだろう。
「海……諦めろ。全ては将軍のペットの為だ」
『待て、落ち着けよ。そんな事したって見つかるわけないだろ。その手に持ってるはちみつとマヨネーズを一旦地面に置け!』
「落ち着いたところで見つかるもんでもないだろ。蜜に惹かれて虫どもが出てくるなら隊士全員に蜂蜜を浴びせろ」
もうダメだ。土方の頭が壊れた。
こうなったら早く目的のカブトムシを見つけるしかない。一刻も早く土方を休ませなければ。
そう思って土方に背を向けて走り出したのだが、土方に逃走したと勘違いされて叫ばれた。
「海!!てめぇ、逃げるつもりか!」
『誰も逃げるとは言ってないだろ!お前はそこにいろ!カブトムシ探してくるから』
「それなら蜂蜜塗れになればいいだろ!!」
何がなんでも人のことを蜂蜜まみれにしたいのか、土方は瓶を持って追いかけてくる。これでは本当に逃げてるように見えるではないか。
「何してるんで?」
『総悟!もうあいつはダメだ。まともな思考回路をしてない!』
ひょこりと顔を出した総悟を見つけるなりその背後へと逃げ込む。ここでやり過ごそうと隠れたのだが、総悟に裏切られた。
「土方さん、海さんならここに居ますけど」
「逃げてんじゃねぇぞ海ィ……」
ジリジリと近づいてくる土方から再度逃げようとするも、がしりと腕を掴まれてその場から動けなくなった。
「海さんダメですぜ。ちゃんと仕事しなきゃ」
『お前わざと引き留めやがったな!?』
「なんのことやら俺はただ仕事してるだけですよ」
サボり魔の総悟が仕事をまともにするわけが無い。
にやあと気持ち悪い笑みを浮かべる総悟を睨みつける。
そしてその直後、頭にドロッとしたものが掛けられた。
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