第45幕
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「海は?」
「部屋の方に」
「そう。まったく、会わない間にあんなにわがままになって」
戻ってきた時野に紅茶を用意させて西ノ宮は来賓室のソファへ深く身を沈めた。
屋敷のソファに比べてしまったらこんな質素なものでは休めたもんではない。早く屋敷に戻って休息を取りたいところ。
「手のかかる子供を持つとこんなにも面倒なんだな」
嫌だ嫌だと抵抗していた海を思い出し、西ノ宮は深くため息をついた。自分の言うことを聞くように躾したはずなのに、いつの間にあんなにわがままに育ったのか。
母である深雪がそうさせたのか。それとも深雪から海を引き取ったやつがそうしたのか。
「そうだ。時野、保険かけといて」
「と、申されますと?」
「あんだけわがままっ子になってるんだ。まだ足りないかもしれない」
ふと思い出したのは忌々しい銀色の髪の男。海を連れて帰ろうとした西ノ宮の前に邪魔するように入ってきたその人物は、海の友人だと言っていた。
友人にしては海を見る目が余りにも優しげだったが。
「あの男、妙に海の周りをうろちょろしてるからね。海が動かなかったらあの男を人質に取る」
自分のせいで知り合いが傷つくことになれば、嫌でも海は動くだろう。それが友人であるなら尚更。
「(果たして彼は本当に友人なのかね)」
自分好みの紅茶に口をつけながらほくそ笑む。海を見る男の目と男を見る海の目。あれは今回のことに利用出来るかもしれない。
「時野、頼んだよ」
「かしこまりました」
深く頭を下げてから時野は部屋から出て行った。
今頃、海は真っ暗な部屋の中で泣きべそをかいているだろう。子供の頃に海をよく窓の無い暗い部屋に閉じ込めたことがあった。
自分のいうことを聞かずにわがままばかり言った海の躾として。その部屋から出てきた海はいつも涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた。
その顔がとてもゾクゾクした。何に興奮していたのかは当時わからなかったが、今となってはよく分かる。
「あぁ……最高だよ。海。お前は私の玩具として最高だ」
父親に対して反抗的な目を向けるのに、いざ自分の身が危うくなると助けを乞う。助けてくれ、それだけは嫌だ、と泣いて縋る海の姿があまりにも無様で。
深雪が海を庇おうと必死に西ノ宮に泣いて縋った時のように、海もまた西ノ宮に縋っている。そうするように仕向けたのは西ノ宮自身だ。
「ねぇ、海。いうことを聞かないとお友達が酷い目にあっちゃうよ?」
口元は自然に弧を描く。これから楽しみだ。海はどんな選択をするだろうか。友人を人質に取られた海は素直に自分の言うことを聞くだろうか。それとも友人を助けて逃げ出すだろうか。
どちらにせよ、海はもう西ノ宮の手の内にある。海はもう自分のものなのだ。
「時間はもう残り少ないよ海。じっくり考えてね」
海がいる部屋の方へと目を向けてにこやかに笑った。
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