第45幕
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「この際だから全部教えてあげるよ」
不敵に笑った西ノ宮が語った話は想像を絶するもの。いや、想像するのも嫌だと思うほど悲惨なものだった。
「深雪はすぐに見つかったんだ。屋敷を出て二週間くらいだったかな?森の中のあった廃屋に一人でいたんだよ。その時に海の行方を聞いたけど、頑なに喋らなかったからさ。もう自分で探せばいいやと思って、深雪を天人たちの好きにさせたんだ。煮るなり焼くなり、その身で遊ぶなり好きにして構わないって」
"最後に本当に焼くとは思わなかったけど"と笑った西ノ宮。
呆然とその話を聞くしか無かった。天人に殺された、とこの男から聞いてはいたが、それは西ノ宮の手によるもの。何もかもこの男が悪いじゃないか。
母が受けた屈辱や恐怖は計り知れない。
「最初から船に乗っていれば、海を隠すことをしなければこんな事にならなかったのに。手間だけ増やしてあの女は死んだんだよ。本当に最後まで厄介なやつだった」
『クズ野郎……』
「うん?」
『お前なんか俺が殺してやる』
ソファからゆらりと立ち上がり、腰に差していた刀へと手を伸ばす。鞘から刀身が抜けた時、海の首元へと小刀が向けられた。
鈍色に光る刃を辿っていくと、先には時野。西ノ宮を守るようにして立っていた。
「時野、子供のお遊びに付き合うもんじゃないよ」
「失礼いたしました」
小刀を懐へと戻すも、海から放たれている殺気に目を光らせる。ただの使用人とだと思っていたが、時野の身のこなしは真選組の平隊士より格上だろう。
使用人である時野がどうしてそんな動きが出来るのか。主である西ノ宮を守護するためにそれを身につけたというのか。
「さて、話はここまでだよ」
時野と海が睨み合う中、ぱんっと手を打って場の空気を西ノ宮が変えた。時野から向けられていた突き刺すような殺気は瞬時に消え去る、殺し屋のような彼の目つきも態度もなくなった。
「これで全部分かったでしょ?海は元から私のモノとして生きてもらう予定だったんだ。今まで自由にさせてたんだからこれからはきっちり親孝行しないとね」
『誰がお前の言う通りにするか。西ノ宮、お前は誘拐の容疑で逮捕する。その罪を牢屋で償え』
「ねぇ、海。誰にものを言ってるの?」
ワントーン下がった声にビクリと身体が震えた。その声の低さには見に覚えがある。
『……なにが……』
「親に向かって散々な言い方するじゃないか。知らない間に随分と"悪い子"になったようだね」
『……ッ』
悪い子、という単語に海はその場を逃げ出した。
来賓室から出ようとドアノブに手をかけるも、鍵が掛かっているのか開くことは無い。その間にも後ろから西ノ宮が近づいてくる。
早く、早くと思いながら扉を開けようとしたが、間に合わなかった。
「海が悪いんだよ。昔から私の言うことを聞かずに動き回るから。子供は黙って親の言うことだけを聞いていればいいんだよ」
真後ろから聞こえてきた声に身がすくむ。もう逃げられないと悟った海は刀へと手を伸ばすも、時野に腕を掴まれて身動きが取れなくなった。
「こんな大きくなったのに躾が必要だなんて。成長してないね、海」
躾と称して西ノ宮が海にしたのは殴る蹴るの暴力。
あの頃の痛みは壮絶なものだった。そしてそのトラウマも。
『ごめ……なさい!』
「時野、部屋に連れて行って」
「かしこまりました」
『嫌だ……やだ!あそこはやだッ!』
「もうあの部屋はないのに。そんなにあの部屋が好きだったの?」
にこりと笑う西ノ宮に血の気が引く。あの部屋が好きだなんて冗談じゃない。
かぶりを振って嫌だと叫ぶ海を時野は無情にも担ぎ上げて来賓室の戸を開ける。
ここは屋敷ではない事は知っている。それでも、子供の頃に染み付いたあの恐怖が海の思考を鈍らせていた。
『嫌だ……あの部屋は嫌だ。やだ、やだやだ!』
「海、わがままはいけないよ。部屋で大人しくしていなさい」
『ごめんなさい!もうしないから、お父さんの言うことちゃんと聞くから、だからあの部屋には行きたくない!』
「時野、」
「はい」
西ノ宮は時野に目配せをして連れていくように促す。嫌だと暴れる海をものともせずに時野は近くに用意されていた暗い部屋の中へと海を放り投げた。
「海様、旦那様の指示があるまでここでお待ちください」
そう言ってから時野は部屋の戸を閉めて鍵をかけた。
真っ暗で何も見えず、音もない部屋。そこには無だけ。
『ごめんなさいごめんさい』
頭を抱えて蹲りながら海はひたすら父親である西ノ宮に許しが出るのを待ち続けた。
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