第45幕
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『あんたは親でもなんでもない。人間の心さえ無くしたのか』
「酷い言われようだね。人の心があるから意思をもって行動してるんだよ」
『馬鹿言え。心があるなら……人様の子供を手にかけようなんて思わないだろ』
「人なんていくらでもいるじゃないか。その中の一人二人が居なくなっただけ。それになんの重要性があるの?」
何も分かっていない。むしろなぜ分からないのか。
どうして理解してもらえないのか。怒りが強すぎてそれは涙となった。伝わらない悔しさで。
「海?どうしたの?どこか痛むの?」
俯き震える海に触れようとしてくる西ノ宮の手を叩き落とす。その行動に西ノ宮は理解できないと首を傾げた。
『二度と俺に関わるな』
「それは無理な話だよ。言ったでしょ?海には橋渡しになってもらう。海が向こうへ行くまではここに居てもらうよ」
それに、と続けた西ノ宮の言葉に海は瞠目した。
「海が橋渡しを担ってくれるならもう誘拐はしない。約束してあげる」
『そんなこと……』
信じられるわけが無い。今まで何人の娘たちを天人へと明け渡してきたのか。そんな男が海を最後にするなど。
「本来は海と深雪を渡せば済む問題だったんだよ。それなのに深雪は海を渡すのを嫌がったんだ。女ってのはとことんめんどくさい生き物だよね。子供なんていくらでも作れるのに。たった一人手放そうとするのも嫌がる」
『なんの……話だよ……』
「そのせいで天人たちからは遅いって罵られるし、和解の話も有耶無耶にされるところだった。お上から大分お叱りを受けたんだよ?深雪が海を連れて逃げ出した時はどうしようかと思ったけど。それはそれで好転したからよかったよ。逃げた獲物を血なまこになって深雪たちを探してる天人たちを見て楽しめたし」
楽しげに西ノ宮が語るのは海の母である西ノ宮 深雪の最期。
ずっと捨てられたと思っていたのは間違いで、海は母親の手によって西ノ宮の魔の手から救い出されていた。身の危険を感じた母は西ノ宮の目を掻い潜って海を屋敷から連れ出した。屋敷から遠く離れた地まで逃げ、海を松陽へと預けた。
西ノ宮の目に止まらぬように海は松陽に守られていた。それは母がそうなるようにしたから。
『母……さん……』
母に愛想つかされて捨てられた訳ではなく、最後まで愛されていたからこそ手放されたのだと。真実を知った今、母に謝りたいと願うも当人は既に故人。
「わかったでしょ?海を向こうへ渡すことで全て終わるんだよ。今まで渡していた娘たちは弱すぎてね。数回遊んだだけで壊れちゃうらしいんだ。海なら男の子だから耐えられるでしょ?昼は母艦を守る兵隊として働いて、夜は天人たちの欲の捌け口としてお遊びに付き合ってあげてよ」
"あぁ、宇宙には夜の概念がないかな?"と笑う西ノ宮にサッと血の気が引く。誘拐した娘たちにそんなことをやらせていたのかと。母にそんなことをさせようとしていたのか。
行方不明となった娘たちの事を考えると怒りで身が震えた。この男だけは許してはならない。怒りに満ちた目で西ノ宮を睨みつけ、この男を捕まえようと常に持ち歩いている手錠へと手をかけた。
『お前はここで逮捕してやる!二度とそのツラ見ねぇように……!』
「無理だよ。私は天人との仲介役を担っているんだから。お上が私を手放そうなんて思わないよ」
『これだけの悪事をしてきたんだ。それが露見すればアンタの立場だってないだろ』
「上がこれを全て黙認していたとしたら?」
『……俺が全て壊す』
そんなことが許されていると言うのであれば、幕府なんぞ無くなればいい。そう呟いた海に西ノ宮は豪快に笑った。
こんなこと言ってしまっては晋助と何ら変わらない。だが、目の前の悪を放置する事はできない。陰で苦しむ町の人達がいるのだ。その人たちから目を背けることは出来ない。止められるものなのであれば止めてみせる。
「あの女とそっくりだよ」
小さくため息を零した西ノ宮は目を細めて忌々しげに海を見やる。その目は海自身ではなく、海に誰かを重ねているようだった。
「あの日もそうだった。天人との約束の日が近づいてきているから準備をしろって言ったのに。あの女は直前になって逃げ出して。あの女と結婚したのはそれだけが理由だったのに。あいつだって没落した桜樹家を立て直せるチャンスだったのにさ」
『没落した?』
「あぁ、海は知らなかったか。深雪の実家は由緒ある家柄だったんだよ。立派な侍の家系。深雪の家も将軍を護るための侍を輩出していたけど、天人が来てからというもの、侍はいらない存在になった。だから桜樹家は必要なくなって没落したの。それを助ける代わりに深雪と婚姻を結んだ」
『まさか……』
「深雪は良い女だったからね。流石は名家だよ。見た目も良ければ性格もいい。今の時代では珍しく男を立てるタイプだったからね。あれなら駒として使えるだろう?」
最初から母は利用されていた。
家の事情を知った西ノ宮がその弱みに付け込み母と籍を入れた。最初から母を天人へ渡すつもりで。それだけの為に。
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