第45幕
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「漸く二人きりだね」
来賓室のソファに深く腰を下ろす西ノ宮と、対面に座らないようにソファの端に座る海。
銀時の元に泊まった数日後、再度城に呼ばれた海の前に現れたのは西ノ宮。
あの日はちゃんと話すことが出来なかったからこうしてまた呼び出させてもらったと言った西ノ宮に海は渋い顔をした。
出来れば二度と話したくはなかった。会わずに済むならそうしたかったが、招喚に応じなかった場合何をされるかわからない。現に近藤たちを脅して海の居場所を吐かせた前科がある。海が城に来なかったからといって近藤に理不尽な罪を被せるかもしれない。海に最初から選択肢などなかった。
『何の用だ。あんたと関わるつもりはないとこの間言ったはずだが』
呼び出された理由を問う海に西ノ宮は変わらず笑みを貼り付けていた。暫しの沈黙の末、西ノ宮は口を開いた。
「私がなんで今更になって海をわざわざ探し出したと思う?」
『そんなもん……』
「わからないよね。安全なところでのうのうと暮らしていた海にはわかるはずもないよね」
一瞬にして西ノ宮の纏う雰囲気が様変わりした。海を責めるような目で見る西ノ宮から視線をサッと逸らす。
「海には天人と人間の橋渡しになってもらおうと思ってね」
『橋渡し……?』
「そう。今後、天人との交流が上手くいくように。物流などが途絶えないように。海には間に入ってもらうよ」
この男は一体何を言っているのか。天人と人間の橋渡し?間に入ってもらう?それは一体どういうことなのか。
『何言って……』
「そのままの意味だよ。海には真選組を抜けてもらって、四日後にくる天人の船に乗船してもらう予定」
『ふざけんな!何勝手に決めてんだよ!』
冗談じゃないと突っぱねて海は出ていこうと扉へと歩み寄る。扉の前に時野が邪魔するように立っていて、扉へと手を伸ばすことは出来なかった。
「海のお友達の坂田 銀時くん。彼、かぶき町で万事屋を営んでるんだね」
突然、西ノ宮の口から銀時の名前が飛び出てきて肩がぴくりと跳ねた。ゆっくりと西ノ宮の方へと振り向くと、にこやかな笑みで海を見ていた。
その笑みを見た海はカタカタと身体を震わしてその場に座り込んだ。
「海が嫌だって言うなら彼に手を貸してもらおうかな。彼、強そうだし。ちょっと無理をしても大丈夫そうだもんね。ほら、天人って規格外な奴らが多いでしょ?海みたいに弱い子より、坂田くんみたいに強い子の方が……簡単には壊れなさそうだし」
『やめろ!!!』
楽しそうに話す西ノ宮に海は叫んだ。銀時が天人の元へと連れていかれる。そんなことさせるわけにはいかない。
自分が拒否すれば西ノ宮は銀時に手を出すのは明白だった。もう、海に選択肢など残されておらず、絶望に打ちひしがれながら覚悟を決めた。
『俺が……行くから』
「うん。私もその方がいいと思うんだ。中々大変なんだよ?天人たちが要望してくるタイプの人間を寄越すのは」
『……は?』
「だから、天人が人間の娘を明け渡せって。このご時世に人身御供なんて笑えないよね」
人身御供。要は生贄。天人に人間の娘を明け渡していたと言った西ノ宮は悪びれもせずにただ笑っていた。
海の頭の中で一つ一つ繋がっていく。ここ最近、やたらと行方不明者が多かった。その被害者はどれも若い娘。忽然と姿を消したまま帰ってこないのだと家族の人に詰め寄られたのはいつの事だったか。
その原因がここに居る。
自分の身を守る事よりも町の人たちの恨みつらみを晴らす方が先だった。
『お前!!』
「なに?そんなに怒ること?」
『家族を奪われた苦しみが分からないのかッ!』
「分からないね。私にとって家族なんて名称でしかない。血の繋がりでしかない集まりに興味なんてないよ」
その言い草に腸が煮えくり返る。仮にも西ノ宮にも家族がある身。新しい妻もいてその間には子供もいる。それを興味無いと言い放った目の前の男に。
もしかして自分を兄と慕ってくれるあの子を。海と同じようにぞんざいに扱い、昔の海のような態度を取っているのかと思ったら。
西ノ宮に対して殺意しか芽生えなかった。
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