第44幕
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"お前のせいだ。全部お前が悪いんだ"
そう言いながら殴ってくる父親に子供の海は涙を零しながらごめんなさい、ごめんさいと繰り返した。
何故こんな事をされているのかはわからない。自分が父親に何かしてしまったのか。今日一日、子供部屋からは一歩も外には出ていない。父親の機嫌を損ねるようなことはしていないはず。それなのに。
『ごめんなさい、ごめんなさい!』
何度も何度も殴られた腕は元の肌の色がわからなくなるほど変色していた。少し触れるだけでも激痛の走る腕を父親は尚も殴りつけてくる。
痛みと悲しみで更に泣き出した海に父親は怒鳴りつけた。
"泣くな!!全てはお前が悪いんだ!!"
『ごめ、なさいっ』
泣くな、と言われても涙は勝手に零れ落ちていく。泣かないように泣かないようにと必死に堪えたが、涙が途切れることは無かった。
⋆ ・⋆ ・⋆ ・⋆
『ごめんなさい……ごめんなさい!』
「海……?」
すぐ近くで声が聞こえて薄らと目を開ける。まだ部屋の中は暗く、時計を見ると真夜中の3時。
こんな時間にどうしたのかと腕の中の海へと目を向けると、小刻みに震えながら泣いているのが見えた。
「海?」
『ごめんなさい、ごめんなさい、僕が……悪いから。全部僕が……!』
悪夢を見ている。
固く閉じられた目からとめどなく溢れてくる涙。そして何度も謝る海。
その姿はかなり久しぶりに見た。松陽と一緒に住んでいた頃はちょくちょく見ていたもの。その度に何度も慰めたし、寝るのが怖いと言った海に付き添って何度も朝まで話していたこともあった。
「海、大丈夫だから。なんも怖くねぇよ」
それはただの夢だから。何も怖いことはないよ。
泣きじゃくる海を抱きしめては背中を撫で続けた。
『ぎん、とき』
「ん?」
『こわい……お父さんがこわい』
いつの間にか目が覚めた海が銀時を見上げていた。涙で濡れた瞳で縋るように銀時を見つめる。
「ここには居ないよ。俺しかいない。怖いのはいないよ」
『ほんとに?』
「本当に。なんも怖いことはねぇよ。大丈夫」
『……ん』
銀時の寝巻きを両手できゅっと掴み、胸元へと擦り寄る頭。背中から頭へと撫でる場所を変え、海の頭へと顔を埋めた。
「怖くないよ。俺がいるから、だから安心してお休み」
それから海は魘されることなく眠った。
ただ、銀時はそれから眠ることが出来ず、海が起きるまでずっと頭を撫で続けていた。
朝、新八が万事屋に来た音を聞いて眠い頭が少しだけハッキリとした。
「銀さん、起きてますか?」
「あぁ。はよ、新八」
「おはようございます……って、え!?一緒に寝てるんですか?」
静かに開けれた襖から顔を出した新八は、銀時と同じ布団で寝ている海を見て目を丸くした。
「俺のしか布団が無いんだから仕方ねぇだろうが」
「いや、別に怒ってるわけじゃありませんけど……何もしてないですよね?」
「何もってなんだよ。傷心中のヤツに手を出すほど銀さんは飢えてませんー」
少しだけ、少しだけ手を出しそうにはなったが。
すやすや眠る海にキスをしてしまおうか悩んだ。寝ているのであれば気づかないだろうと。
海の頬に手を添えて唇が触れるか触れないかのスレスレの所まで顔を近づけたのだが、寸前でやめてしまった。寝込みを襲う趣味は己にはない。
「それならいいですけど。朝ご飯どうします?」
「あー……作っといてくんねぇ?」
「分かりました。海さんって好き嫌いとかあります?」
「いんや、なんでも食うよこいつは」
「じゃあ適当に作っちゃいますね」
「おう、よろしく」
寝ている海をそのままに新八は襖を閉めて台所へと去っていく。襖から海へと目を戻すと、漆黒の目がこちらを見ていた。
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