第44幕
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「新八に風呂沸かしてもらったから入ってこいよ」
『そうさせてもらうわ』
落ち着いた銀時がそっぽ向きながら風呂場の方を指差した。
屯所に帰ろうかとも思ったが、己の状態を考えるとここで着替えた方が最善である。このまま帰ったら帰ったで土方に問い詰められるだろうし。
『朔夜は?』
「先に屯所に帰らせた。あそこをあのまんまにも出来ねぇし……」
『そ、うか。あいつは……』
「多分大丈夫だと思う」
『え?』
「駆け寄ってこようとしてたけど止めたから。見るなって」
あぁ、気を遣わせてしまった。朔夜に自分の姿を見られないように。
『悪い』
「気にしなくていいって。ほら、それより風呂入って温まってこいよ」
ぽすっと頭の上に乗る手に撫でられこくりと頷く。タオルと着替えを持たされた海は銀時に肩を押されながら風呂場へと向かった。
⋆ ・⋆ ・⋆ ・⋆
「あ?だから海はこっちに泊めるわ」
"てめェ勝手に決めてんじゃねぇ。そいつはウチの隊士だ"
「だからなに?隊士であってもあんたの子供ってワケじゃないでしょ」
海が風呂に入ってる間に掛かってきた電話を取ると、それは真選組からの連絡だった。開口一番に土方に「海を出せ」と言われて眉間に皺を寄せた。
土方に今日は海をそっちへは帰さない、ウチに泊まらせると言ったのだが、土方は頑なに海を屯所に戻らせろと言って聞かなかった。
あんな状態の海をおいそれと返せるわけがない。さっき自分が無意識に海に甘えてしまっていた時は普通にしていたが、風呂に行かせた時の海の瞳は不安気に揺れていた。
そんな海を返したくはない。ふとした時に思い出してしまって、一人で耐えてる姿なんて想像したくない。
「あんたもしつこいね。海はウチで預かるから。もう切るよ」
"なら今から迎えに行く"
「は?ちょっと無理矢理過ぎない?」
"それはてめぇもだろうが。迎えに行くから準備しておけ"
「させるわけないでしょうが。来たってあんたら追い返すからな。海はウチに泊まるんですー」
迎えに行くの一点張りの土方に銀時はこめかみに青筋を浮かべる。融通のきかない男に段々とイライラしてきた時、ふわりとシャンプーの香りが鼻腔をくすぐった。
受話器を持つ手に触れる温かい指先。後ろへと顔を向けると、そこには頭にタオルを乗せた海が立っていた。
『貸して』
「え、でも……」
『いいから』
銀時の手からかっさらうように受話器を取り、耳に当てる。土方と話しているのを聞きながら銀時は海の頭に乗っているタオルへと手を伸ばした。
『悪い、今日だけ万事屋に泊まるのはダメか?』
申し訳なさそうに土方に頼み込むも、相手が渋っているのか海の表情は固い。出来れば今日のところは、と再度頼みこむのを耳にしながら銀時は海の濡れた髪をタオルで拭った。
『わかった。悪いな、無理言って。明日には土方の仕事手伝うから』
ほっとした表情になったのを見て、漸く土方が折れたらしい。
『じゃあ、また明日。ん、お休み』
受話器を戻し、黒電話特有のチン!という音を聞いた海は詰めていた息を吐いた。
「大丈夫そうか?」
『今日は許すって。でも、明日の朝には迎えに来るってよ』
「過保護過ぎねぇ?君んとこの上司君」
『仕方ねぇよ。この間の晋助の件からまだそんな月日経ってねぇんだから。これ以上迷惑かけるわけにもいかないし』
いや、それは迷惑ではなくただ、土方が海を心配し過ぎているだけではないのでは?
自分と同じ想いを海に寄せているあの男のことだ。何かあったというのであれば自分の傍に置いて慰めてやりたいのだろう。
前回の事もそうだが、今回の件も土方の出る幕はない。海の過去を知っているのは自分だけなのだから。それを誰かに教えるつもりは無い。海のことは自分だけが知っていればいい。
この優越感は誰にも譲らない。
「そ?じゃあ、迷惑かけないように早めに寝ておくか?」
『……ん、』
風呂で温まったせいか眠そうに目がトロンとしている海に銀時は微笑む。
海の手を引いて寝室へと入り、布団へと腰を下ろす。
「あ、布団俺のしかねぇけど……」
『なら俺はソファで寝るから』
「なんでそうなるの?いいじゃん、一緒に寝れば」
『……は?』
「ほら、ガキの頃はよく一緒に寝てたろ。一人で寝るの怖いって言って」
『それは子供の頃の話だろうが。今は一人で寝れる!』
「はいはい。海くんは成長したんですねぇ?」
偉いねェ。なんて言いながら海の腕を引っ張って布団の中へと引きずり込んだ。抜け出そうとする海を抱き込み、寝かしつけるように背中を撫でた。
徐々に抵抗する力は弱くなり、最終的には銀時の腕を枕にして海は寝落ちた。
「おやすみ、海」
海の額に軽くキスをして銀時も目を閉じた。
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