第44幕
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からから、と音を立てて万事屋の戸を開ける。ブーツを脱いで家へと上がると、居間の方からドタバタと走ってくる新八と神楽。
「銀ちゃん!海大丈夫だったアルカ!?」
「怪我してませんか!?」
銀時の袂を掴んで引っ張る神楽と、腕に抱えられている海を見て青ざめる新八。
なんて説明しようものかと頭の隅で考えつつ、銀時は新八へと口を開いた。
「新八、風呂沸かしといてくれ」
「え?お風呂ですか?」
「海が起きたら入れるから。沸かしといて」
「あ、はい」
「海眠ってるアルカ?」
「疲れてんだよ。仕事のし過ぎなんじゃねーの?」
眠っている理由を子供に教えるわけにはいかず、銀時は適当に言い繕って寝室へと歩を進める。
新八は風呂場へと駆け出し、神楽は銀時を追って寝室へと来た。
「銀ちゃん、何があったの?」
「なんも?ひったくり犯なら海が捕まえたから」
「ならなんで海寝てるアルカ。取り調べとかするんじゃないアルカ?」
銀時と海を訝しげに見つめる神楽。新八より察しの良い彼女に銀時は何も言わずに寝室の襖を閉めた。
畳の上に布団を敷き、その上に海を寝かす。海を包んでいた着物を開くと、可愛らしい寝顔。
「海」
二週間前、海には関わるなと言われた。その時はどういう意味だったのかは分からなかったが、今では少しわかる気がする。
銀時と海の前に現れた時野。
海は時野の事を恐れていた節がある。海が唯一怖がる相手といえば、父親である西ノ宮。幼い頃から躾と称して暴力を受けていた海にとって、西ノ宮は自身を脅かす存在。
子供の頃に聞いた話だからうろ覚えだが、確か屋敷の使用人たちも海に対して冷たかったはず。
子供の頃に植え付けられた恐怖はトラウマとなって今も海のことを蝕んでいる。
「今更コイツになんの用なんだよ」
銀時の着物を掴んでいる手へと自分の手を重ねて優しく握る。着物を掴んでいた手は銀時の手を掴み、縋るように握り返してきた。
もう海を苦しめるのはやめてほしい。どうして海ばかりがこんな目に合うのか。
海の困った顔も、泣きそうな顔も見たくない。今まで辛い思いをしてきた分、これからは笑っていてほしい。好きなことをして、幸せになって。
「……それが俺の隣だったら……いいんだけどな」
自分の隣で笑っていてくれたら。
それ以上の幸福なんてあるだろうか。好きな人が幸せそうに微笑んでくれていたなら。
海の笑みを思い浮かべ、つられるように銀時も口元を緩める。
「海、」
好き。大好き。
その言葉を本人に伝えられればどれだけ楽か。子供の頃から心の奥底に隠し続けてきたこの想いをいつか海に伝えられる日が来るのか。
伝えてしまったら……海は銀時を嫌ってしまうだろうか。それとも困った顔でごめんな、と言われてしまうのか。
どちらにせよ今のままでは良い方向には転ばない。海はきっと銀時のことを友人として見ているだろうから。海が銀時のことを少しでも好いてくれたら。その時にこの想いを伝えてみよう。
「あー……俺は思春期のガキかっつの」
悶々とした気分を振り払うように頭を振る。今はこんな事で悩んでいる暇はない。
時野は海を迎えに来ると言ったのだ。あいつはまた海の前に現れる。その時に海を守らなければならない。海が守ってくれたように。
「俺が守るから」
だから今は安心してお休み。
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