第43幕(微裏?)
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いつの間にか町民に囲われる形になってしまった海はこの場をどう切り抜けようかと思案した。朔夜の事を弟だと紹介した途端、町民たちは朔夜を可愛がり始めてしまった。
戸惑いがちに返事をする朔夜を可愛い可愛いと愛でる町民たち。そろそろ朔夜がテンパりそうだなと思った矢先、女性の劈くような悲鳴が耳に飛び込んできた。
「きゃあああ!誰か!!」
「兄さん!」
『朔夜はここで待ってろ!』
「に、兄さん、僕も行く!」
周りの人にすみませんと声をかけて女性の元へと駆け寄る。泣きながら座り込んでいる女性のそばに片膝ついてしゃがみ何があったんだと優しく問いかけると、彼女は泣きながら持っていたバッグをひったくられたと前方を指差す。
指を伝ってその先を見れば、女物の鞄を手にして走る三人組の男。その中の一人がこちらを振り向いて海を見た。
『あいつか。朔夜はここにいろ!』
「あっ、兄さん!」
朔夜を女性の元に残して海は一人ひったくり犯を捕まえるべく走り出した。
⋆ ・⋆ ・⋆ ・⋆
「銀ちゃん、仕事もう終わりアルカ?」
「あぁ」
「ぎ、銀さん!何か甘いものでも食べに行きませんか?」
「あぁ」
気のない返事を繰り返す銀時に新八は重いため息をついた。
海の元へ朔夜を連れていったあの日の夜から銀時はずっとこの調子である。何か思い詰めた顔をしたかと思えば深いため息をつく。どうしたのかと聞いてもはぐらかされてしまう。なんでもない、と言いながら何かを考えている。常に心ここに在らずな銀時に新八と神楽はただ首を捻るばかりであった。
「新八ィ」
「なに?神楽ちゃん」
「あれ」
「あ……」
とぼとぼ歩く神楽が指差す方。そこには小さな人だかりが見えた。何をやっているのかとその方へと目を凝らす。
誰かを囲うように固まっている町民たち。その囲いの真ん中には海と海に引っ付いている朔夜の姿が見えた。
「あぁ、いつものかな」
「海も最近万事屋来なくなったアル」
「そう、だね」
そう言われてみれば、海を見るのも久しぶりな気がした。
というか銀時が落ち込むようになってから一度も海は万事屋には来ていない。まさか銀時は海と喧嘩でもしたのだろうか。
神楽へと目を向けると、寂しそうな顔で海を見ていた。
その直後に聞こえる女性の甲高い悲鳴。そして目の前を走り去っていく男たち。その手にはカバンが握られており、瞬時に何があったかわかった。
その声に海が反応しないわけもなく、人だかりの中から出てきた海はすぐさま座り込んでいる女性へと手を貸す。海は女性と少し話した後、朔夜をその場に残して引ったくり犯を追いかけて行った。少ししてから朔夜も海を追いかけて走っていく。
これはもしかしたらチャンスなのでは?もし、銀時が海と喧嘩したというのであれば、ここで海を助ければ仲直りをするきっかけが作れるのではないだろうか。
と、思ったのは新八だけではなかった。
「新八ィ!ここは本音と建前ネ!」
「それを言うなら嘘も方便だよ!」
新八と神楽は顔を見合わせていたずらっ子のようにニヤリと笑った。
「銀ちゃん!今、海がいたヨ!」
「ふーん」
"海"と聞いて銀時はピタリと足を止めた。
「今、ひったくり犯追っかけて行ったんです!一人で!」
「あぁそう。仕事熱心なこった」
「あの男刃物持ってたアル!海危ないヨ!」
少しでも銀時が海を追いかけやすいように、神楽は見てもいないものを口にした。
「……海なら大丈夫だろ」
それでも動き出さない銀時に新八が焦れて嘘に嘘を重ねる。
「な、なんか辛そうな顔してましたよ!多分体調悪いんだと思います!」
体調が悪そうに見えたとまで言えば嫌でも海を追いかけるだろう。手に汗握りながら新八は銀時の背を見つめた。
案の定、銀時は舌打ちをしながらも海が行った先へと走り出した。
「あれ?銀さんなんで海さんが行った先知ってたんだろ」
「あの腐れ天パずっと海のこと見てたネ。変態ヨ変態」
やっと行ったか、とため息を零す神楽。海の事を見ていたというのであれば、自分たちの嘘に気づいてたかもしれない。
「銀さん戻ってきたら僕達怒られるね……」
「銀ちゃんならきっと分かってくれるネ」
「だといいけど……」
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