第42幕
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夕飯と湯浴みを済ませた海は自分の部屋に朔夜を寝かせてから部屋の前の縁側で月を眺めていた。
久しぶりに摂取した酒は海の思考をあっという間にぐらつかせ、まともな考えが出来ない。
昼に起きたことを全て忘れるように酒を煽る海を見た隊士たちが心配気に声をかけたが、海は素っ気なく返すばかり。
「海?珍しいな。こんな所で飲んでるなんて」
『近藤さん……』
「どうした?帰ってきてから元気がないみたいだが……」
湯浴みを済ませたであろう近藤が髪をタオルで拭きながら縁側へと訪れた。どかっと海の横に腰を下ろして月夜を眺める。
『そんなことはないよ。少し……疲れただけだから』
「城で何があったんだ?」
『……それは』
「言いたくないなら無理には聞かねぇよ。でも、それで悩んでるんだったら少しでもいいから話してみないか?」
俯く海に笑いかける近藤は澄み切った瞳で海を見据える。もう隠すことが悪い事だと思ってしまうほどに。
『父親に……会ってきた』
「親父さんに?」
『西ノ宮家の人間なんだよ。俺』
「え"」
西ノ宮と聞けば誰もが知ってる名前。それは近藤も例外ではなく、その家の人間だと呟いた海に近藤は渋い顔を浮かべた。
普段なら笑ってなんでもないように受け流す近藤でさえも戸惑う。その姿に海は苦笑いを零した。
『今はもう関係なんて無いようなもんなんだけどな。そう思ってたんだけど……』
「それで今日城に呼び出されたのか」
『やり直そうだってさ。今まで人のこと放ったらかしにしといて今更家族ごっこしようなんてよ』
笑えるよな、と呟いた海に近藤は口篭る。そんな近藤に海はお猪口を差し出して酒を注いだ。
「戻りたいとは思わなかったのか?」
『思わない。父親にはガキの頃から良い思い出なんて一つもない』
あるのは痛みと恐怖だけ。目が合ってしまえば容赦なく殴られ、蹴られの暴力。自分の部屋に引きこもって会わないようにしていたのに、機嫌が悪くなれば海を探し出してでも憂さ晴らしをしにくる。
そんな人間をどうやって父親だと呼べるだろうか。
『戻るつもりは毛頭ない。あんな場所に戻りたくないんだよ』
「海……」
『俺はここを離れるつもりは無いよ。まだ近藤さんには返しきれてない借りがあるんだからさ』
不安気な近藤に海は緩い笑みを向ける。その柔らかさに近藤は固くなった表情を緩めた。
『あのさ、』
「うん?」
『ちょっと相談があるんだけど……』
「なんだ?今日はいくらでも海の話聞いてやるから、なんでも話してみなさい」
にかっと気持ちの良い笑顔の近藤に海はぽつりぽつりと話し始めた。
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