第42幕
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弟、西ノ宮 朔夜と名乗った彼には話せる範囲でのことを話した。
「じゃあ、兄さんはお母さんの旧姓を使ってるんですか?」
『西ノ宮の姓を使うのは荷が重くてな。使う気になれなかった』
西ノ宮の姓を使う気にはならない。誰が好き好んであの男の家名を使わなくてはならないのだ。それならば母の姓を使わせてもらう。
西ノ宮のあの屋敷を出た時、母に言い聞かされていた姓。大きくなった時に西ノ宮ではなく桜樹を使えと。何度も何度も教えられた苗字を海は忘れずに覚えていた。
松下村塾でも名乗る時は桜樹で通した。晋助も桂も海が元々は西ノ宮という苗字だった事は知らないだろう。
知っているのは松陽と銀時だけ。
「あの、坂田さんとは仲が良いんですか?」
『……なんでそれを?』
今聞きたくなかった名前を出されて自然と海の声が低くなる。朔夜はそんな海に気づくことも無く、銀時のことを話し始めた。
「写真を出した時になんか不思議な感じがしたんです。依頼した時は分からなかったけど、ここに来た時にあぁ、兄さんと仲が良いんだなって。お友達だったのかなって」
『友達……』
その単語に違和感を感じた。銀時とは幼なじみで、友人で……友人?
「兄さん?」
ツキン、とした痛み。それは銀時のことを思い出すと鋭さを増し、ズンッと胸を重くさせる。
本当に自分は銀時のことを友人として見ているのだろうか。この痛みは一体なんなのか。
「海さん。疲れてるじゃありやせんか?」
『え……?』
「朔夜、話はまた明日にしやしょう。海さん今日朝から動いてるんでィ。そろそろ休まないと」
「あっ、ごめんなさい!兄さんのこと気にしないで僕……」
『いや、別に気にしなくても……』
「ゆっくり休んでください!」
「そうですぜ。ゆっくり休んでその顔どうにかしてくだせェ」
総悟は朔夜を連れて海の部屋を出て行った。部屋にぽつんと一人残された海は呆然と襖を見つめていた。
『その顔って……どんな顔だよ』
ぺたりと頬に触れてみるが、そんなんで今どんな顔をしてるかなんて分かるはずもない。
あの総悟がわざわざ話を途切れさせてまで朔夜を部屋から連れ出したのだ。自分は今酷い顔をしているのだろう。
『年下に気を遣われるなんて情けないにも程が……』
はぁ、と深いため息をついて海は畳へと寝転んだ。朝から使い込んでいた頭は休息を欲していてさっきから頭痛がしていた。心無しか胃も痛い気がする。
目を閉じて深呼吸をするように深く息を吸い込んで吐き出すのを繰り返している内に海の意識は闇へと落ちていった。
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