第42幕
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痛い、痛い痛い痛い。
ズキズキとした痛みが胸を襲い、海は民家の屏へと寄りかかりながらズルズルと音を立てて座り込んだ。
これ以上、銀時たちをこの件に関わらせるのはマズいと頭の中で警鐘が鳴った。だから、敢えて銀時に酷いことを言って自分から遠ざけたのだが、その言葉が今は鋭いナイフのように海の胸に突き刺さっていた。
『ごめん、ごめんな……』
守るためにはああするしかなかった。でないと銀時は海を守ろうと盾になってしまう。先程の時野の時のように。
それでは駄目なのだ。時野はきっと銀時のことを覚えただろう。主人に従順だったあの男のことだ。銀時のことを報告するに違いない。海と親しい仲にあるというのを知られたら何をされるかわからない。
西ノ宮とはそういう男。自分の利益の為なら何でもするような奴。今回はその矛先が自分へと向いている。権力を使い、我が子を使ってでも己を手中に収めようとしているその理由が分かるまでは下手なことは出来ない。
だから突き放した。それなのに。
突き放した本人がこんなに落ち込んでいるなんておかしな話だろう。
こんなではつけ込まれてしまう。
『しっかりしろよ……こんなこと慣れてるだろうが』
どれだけアイツを庇うために怪我をしてきたと思ってるんだ。これくらい何ともないだろう。
震える足に力を込めて立ち上がり屯所へと歩き出す。帰ったら土方に説明しなくてはいけないし、もしかしたら弟の方も自分が戻ってくるのを待っているかもしれない。
帰っても休むことの出来ない状況に海はため息をついた。
考えを巡らせる事によってそれに気づかないフリをした。昔、受けた傷よりも銀時が泣きそうな顔で海に手を伸ばしていた姿を見た時に感じた胸の痛みの方が辛かったことに。
⋆ ・⋆ ・⋆ ・⋆
『ただいま』
「お帰りなさい……!」
『居たんだな』
屯所へと帰った海を一番に迎えたのは弟だった。
「ごめんなさい……僕……」
『ずっとここで待ってたのか?』
「は、はい……」
『土方に入れてもらえなかったのか』
海が銀時を連れて屯所を出た時は土方が居たはず。後ほど説明をするとは言ったのは自分だから仕方ないとはいえ、子供をこんなところにずっと放置していたのかと思うと呆れてものも言えない。
「違うんです!僕がここで待ちますって言ったんです」
「という事ですぜ、海さん」
『総悟もいたのかよ』
「"兄さん"が帰ってくるまではここに居ますって言うんで、一緒に待ってやした。一般人がこんな所にいるなんてはたから見たら不審がられるんで、話し相手をと」
『気を遣わせたな』
「気にしないでくだせェ。勝手にやったことなんで」
緩い笑みを浮かべる総悟に海もつられるように笑った。
「あの……僕」
『聞きたいこと沢山あるんだろ?』
おいで、と手招きして屯所の玄関へと進む。後ろで総悟と弟が楽しげに会話をしているのが聞こえ、自然と笑みが零れた。
「あ、海さん。土方さんが後で副長室に来いって言ってやした」
『ん、わかった』
総悟と弟を自分の部屋へと連れていった後、海は土方が待つ副長室へと向かった。
『桜樹だけど』
「入れ」
きっちりと閉められている襖をノックするように叩いて声をかければ、間髪入れずに中から返事が返ってくる。襖に手をかけて静かに開ければ、ふわりと煙草の臭いが鼻を擽った。
「遅ェ」
『ちょっとな』
「それで?あのガキは一体何者だ」
無駄な話などせずに本題に入る土方。さて、どこから話すべきかと頭の中を整理する。今話すべきは弟のこと。ならば城であったことは端折っても構わないだろう。
『腹違いの弟』
「は?」
『そのまんまの意味』
ぽかんと口を開けて驚いた土方は、口元から煙草を落としそうになって慌ててくわえ直していた。
「お前……親いたのか」
『一応な。子供の頃に会ったのを最後に今まで連絡も何も取らなかったんだが……』
あぁ、これでは城であったことも話さなくてはいけなくなるかもしれない。それは至極めんどくさい。なんとか話を逸らせないかと逡巡したが、土方が勝手に話を変えてくれたおかげで気を遣わずに済んだ。
「それであのガキがここに来たのか。兄貴のツラを見に」
『そういう事。あの子供の気が済んだらここから出すつもりでいる』
「ガキには似合わねぇ場所だからな。早々に追い出せ」
そう言った土方はフッと煙草の煙を吐いた。冷たく感じる言葉だが、一般人である子供がいつまでもここに居るのは世間体的に良くない。ただでさえ世間からよく思われていない武装集団なのだ。そんな所に長く居させるわけにはいかないだろう。
土方にはある程度の説明をし、海は自分の部屋へと戻った。
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