第41幕
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やっといつもの海に戻ったかと胸を撫で下ろしたのも束の間。
公園の近くに止まった車の音に気づいた銀時は土方たちが海を迎えに来たのかとため息をついた。
高杉が海を誘拐してからまだ日は浅い。真選組の、特にあの鬼の副長と謳われている土方は海に対して過保護になった節がある。
だから、当然海を連れ戻しに来たのだろうと。そう思っていた。
「海様。こちらにいらしたのですね」
『誰だあんた』
銀時の予想と反して、公園に足を踏み入れたのは見知らぬ初老の男。皺一つない黒の燕尾服に身を包んだ男は海を見つけると深々と頭を下げた。
「お久しぶりでございます、海様。最後にお会いしてから長らく空いてしまいましたが、変わらずお元気そうで何よりでございます」
その割には表情一つ変えずに淡々と真顔で話すでは無いか、と言いたくなったが言葉に出さずに飲み込んだ。
『悪いが、俺はあんたの事は知らない』
ベンチに座ったままの海は公園の入口付近にいる男を強く睨む。
「旦那様の元で働かせていただいている時野と申します」
名前を聞いても分からない銀時はただ首を傾げた。旦那様とは一体誰なのか。
この男を知っているのかと海に訪ねようと振り返る。
「海……?」
時野と名乗った男を凝視している海は顔を真っ青にして怯えていた。カタカタと震える手へと己の手を重ねて安心させるように指先で撫でた。
「お忘れですか?まだあの頃の海さまは幼かったので、覚えていらっしゃらなくても仕方ありません」
海は黙ったまま時野をずっと見つめていた。手の震えは一向に治まらず、むしろ先程よりも強くなっている。
何をそんなに怯えているのか。あの男が名乗ってからというもの、海はひたすら何かに怯えている。
あの男に原因があるというのなら。
「……貴方は?」
『ぎ、んとき?』
海の視界を遮るように、壁になるように銀時は立った。右手は海の手を柔らかく掴んだままにして。
「途中から入ってきた癖にちょっと態度がデカいんじゃねぇの?」
『おい……!』
「海は黙ってなさい」
「それは失礼いたしました。旦那様より海様にお会いしたら挨拶をしておくようにと言われておりましたので。こちらの配慮が足りなかったようですね。多大なご無礼をお許しください、海様」
あくまで海に向けてだけ謝るスタンスの時野に銀時は引き攣った笑みを浮かべた。
「で?挨拶に来ただけ?なら早く帰ってくんない?俺たちまだ話すことあるから。それともなに?ここで執事喫茶でも開こうっての?それなら俺たちはここから退散させてもらうわ」
「お帰り頂くのは貴方の方ですよ」
「は?」
「海様、旦那様がお屋敷でお待ちになっております。どうぞ私めと共に参りましょう」
手を取れと言わんばかりに海へと手を差し出す。そんな簡単に行かせる訳もなく、銀時は繋いでいる手に力を込めた。
「なに?この子はシンデレラかなにかなの?悪いけど、海は誰にも苛められてないし、ましてやどこの誰かわからねぇような
「海様。旦那様がお待ちです」
一歩、海の方へと足を踏み出した時野。
海は繋いでいた手を解いて時野の方へと歩き出した。
「海ッ!!」
『時野って言ったか』
「はい」
一呼吸の間。そしてひやりとした殺気が海から放たれる。今まで眉ひとつ動かさなかった時野が、海の顔を見て恐れの表情を浮かべた。
『二度と……そのツラ見せるな』
海は時野の横を通って公園から出ていこうとする。不意に海が銀時の方を振り返り小さく手招きをした。
慌てて海の元へと駆け出した銀時が横目で見たのは、苛立ちが隠しきれていない時野の顔だった。
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