第41幕
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公園についてからというものの無言のままベンチへと腰掛けた。飲み物でもいるか?と聞いてみたが、海は首を横に振るだけで一言も発さない。
疲れた顔で俯く海になんと声をかければいいのか分からず、ただ銀時は海の傍に寄り添った。
『今日……城に呼び出されたんだよ』
漸く口を開いた海がぽつりと話し始めたのは、海が朝から屯所を出ていた理由。
最初、屯所に来た時に山崎に海は居ないと言われた。どこに行ってるのかと聞いたら、近藤と共に城へ行ったとだけ言われた。
海はその事を話しているのだろう。
『もしかして俺の事が上にバレたのかと思ったんだよ。そしたら全然違う理由で』
「なんだったの?」
『アイツが……西ノ宮が……やり直したいって。家族としてやり直さないかって』
苦しげに言われた言葉に銀時は頭をガツンと殴られたかのような感覚に陥った。
家族としてやり直したい?今まで海を放ったらかしにしていた癖に?
海の母親の死に際に笑っていた様な奴が?
「なんて答えたんだ?」
『断った。今更家族としては見れないって。もう俺の家族は他にいるって。そしたら弟にだけは会ってやってくれってよ。わがままにも……程があるだろ?』
空を眺めていた海の目からぽろりと雫が落ちた。それはたった一粒だったけど、海が一人で抱え込んでいたもの全てがその雫に表されていて胸が酷く痛んだ。
『どうしたらいいのかもうわかんないんだよ。俺はアイツの元には戻りたくない。でも、もうあの子供は俺を兄だと認識した。知らされてたんだよ……俺の事をあの子供が探してるってのを』
──全て何もかも西ノ宮の思う通りになった。
そう嘆いた海はへらりと嘲笑った。
『今まで好き勝手やってた罰だって言うなら……甘んじて受け入れるしかねぇな』
「罰なんかにさせっかよ……そんなの」
『銀時……?』
「俺がそんな事させねぇから。言ったろ?海の事は守るって」
海は目を見開いて銀時を見つめる。
昔、海と約束したこと。あれは確か海が近所のガキに苛められていた時だったはず。
女のような容姿をバカにされ、鬼子と言われた銀時と共に暮らしていたことを怖がられた海。今より大分弱かった彼はいじめの格好の餌食となっていた。
松陽にも銀時にもいじめられていることを言わずに黙って一人耐えていた。海が苛められていると気づいたのは大怪我をして帰ってきたとき。
着ていた着物はボロボロ。そして赤く腫れた左腕を庇いながら泣きながら帰ってきた海を見て驚いた。腫れた左腕は折れていたし、身体中には青い痣に擦り傷。誰にやられたんだと聞いても海は首を横に振るだけで何も言わない。
やられた本人は大人しく手当を受けるだけで、こんな目に合わせた相手の名前を頑なに言わなかった。
「あん時、近所のクソガキ共を全員殴りに行こうかと思ったんだからな?」
『そ、れは……』
「陰で海に庇われてたなんて知らなかったからな」
『……悪いかよ』
「悪くないよ。けど、それで海が痛い思いしてたのは許せねぇ」
結局、海を苛めていた奴はすぐに分かった。
いつもと違う海の痛がり方を見た奴が報復を恐れて喋った。母親に連れられて松陽の家へと来た子供は銀時を見て酷く怯えていた。
当然、その子供に殴りかかろうとしたが、海に止められて出来なかった。泣きながら銀時の腕に引っ付いた海は「友達を殴っちゃダメ!」と叫んだ。
その言葉に松陽は海に優しい笑みを向け、海に怪我を負わせた子供に冷ややかな目を向けていた。
「懐かしいもんだよなぁ。まさかあんな弱かった海に守られてたなんてよ。覚えてるか?海がそいつに言ったこと。"銀時は皆より少し強いだけでなんも変わらない。みんなと同じ子供なんだよ"って」
当時、その言葉がとても嬉しくて。自分を庇うように立っていた海の背中は小さくて頼りなさげで、でも、必死に銀時を守ろうとしてくれた姿は強くて。
だからその日誓った。海を守ろうって。自分を守ってくれたように海の事を守るって。
松陽が見てようが、側で高杉と桂が目を丸くしていようが構わなかった。
"俺が海のこと何がなんでも守るから!もう傷つかないように守るから!"
そんな子供の頃の約束。その時に海に惚れた、なんて話まではしないけど。
『覚えてない。うるさい、もうなにも言うな!』
恥ずかしそうに顔を背ける海が面白くて、にやにやしながら逸らされた顔を追った。
もうその顔には憂いは無くて、いつもの表情に戻っていて心底安心した。
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