第40幕
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体が揺れているのを感じて意識が浮上する。誰かに抱えられているのか、背中と膝裏にある温かみ。目を開けてその人物を見上げれば、見知った顔がそこにあった。
『銀……?』
「あ、起こしちまったか?もうすぐお前の部屋つくから大人しくしてろよ?」
そう言って微笑む銀時。いつもの優しげな笑みを見て何故か心臓がどくりと脈打つ。痛みではないそれに海は戸惑い、思わず銀時の着物を掴んでいた。
「どうした?」
『いや、なんでも……』
着物を掴まれた銀時が不思議そうに海の顔を覗き込むように頭を下げる。近づいてくる顔、いつも見慣れているはずの赤目。それが己の間近にあるのだと知った時、心臓の鼓動が早くなった。
『近い……』
「え?」
銀時から咄嗟に顔を逸らす。何故、こんなにも心臓がうるさいのか。なんで銀時の顔を真っ直ぐ見れないのか。どれだけ考えても分からない。
『降ろせ、ばか』
「もう少しで部屋つくからいいじゃねぇか」
『良くない。他の隊士達に変な目で見られるだろうが』
銀時の着物から手を離し、地に足をつけようともがいたのだが、それ以上に銀時に抱え込まれてしまって身動きが取れなくなった。
「もう少しこのままはダメ?」
耳元で囁かれた声に大袈裟なくらい肩が跳ねる。それには銀時も驚いたようで、きょとんと間抜けな顔をしていた。
腕の力が抜けたその一瞬を見計らって海は足を振り上げて銀時を蹴り飛ばす。
「ちょッ!乱暴過ぎない!?」
『うるせぇ。俺は降ろせって言っただろうが』
庭の方へと蹴り飛ばされた銀時は痛そうに顔を歪めて海を睨んだ。やっと銀時から解放されたことにホッと胸を撫で下ろしている反面、無くなった銀時の体温に少し寂しさを感じて首を傾げた。
『……なんなんだこれ』
「なに?体調でも悪いの?」
今は収まりつつある鼓動の早さに違和感を越えて恐れさえもあった。何か病気にでもなったのではないかと不安を抱く海を心配そうに見つめてくる銀時。
いつの間にか庭から海のいる縁側へと戻ってきた銀時。その距離はさっきと同じで、とても近くて──
『ち、近いって言ってんだろうが馬鹿がッ!』
「あべらッ!!」
とりあえず殴った。
⋆ ・⋆ ・⋆ ・⋆
『で?なんでお前がここに居るんだよ』
「その前になんか言うことあるんじゃないの?なんで俺は無意味に海にこんなに暴力受けてるの?え?そこんところ無視なの?大体、近い近いって言ってるけどいつもあの距離で話してたじゃん。なんで今更そんな嫌がるのよ。え?」
縁側から場所を変えて海の部屋。襖の方に銀時が胡座をかいて座り、机を挟んだ向こう側に海は腰を下ろした。
ぶつぶつと文句を呟く銀時に海は目を細める。
『なんでここに居るんだって聞いてるんだが?』
銀時の言葉を全部無視して海は銀時がここにいる理由を問い詰める。その態度に銀時はため息をこぼして、頭をいつものようにわしゃわしゃっと乱暴にかいた。
「ウチんところにガキが来たんだよ」
『ガキ?』
「なんでも人を探して欲しいってな。名前も知らねぇ、会ったこともねぇ、そんな奴を探して欲しいって言うから無茶言うなって言ったんだけどよ……こんなもん見せられたらどうすりゃいいのか分からなくなってな」
銀時が己の懐から出したのは一枚の写真。机に置かれた物へと目を向けた時、ズキリと頭が痛んだ。
『なんで……これを』
「そいつなんて言ったと思う?"兄貴を探してくれ"って言ったんだよ」
"弟に会ってやって欲しいんだ"
城で言われた西ノ宮の言葉が頭の中で復唱される。西ノ宮とあの女との間に出来た子供。その子供が自分を探している。
あろう事か、海の友人である銀時の元へと出向いて。
「海?」
『……しろ』
「え?」
『その依頼、拒否しろ』
机に置かれている写真を手に取って立ち上がる。何時だったか土方が部屋に来た時に忘れていったライターを片手に縁側へと出た。
「海?お前何して……って、おい!!」
カチリ、と小気味良い音を鳴らしてライターは火を吹く。その火を写真へと近づけて燃やした。灰になっていく様を冷たい目でじっと見つめる。
「それ借り物なんだけど!?」
『無くしたとでも言っておけよ。受けた依頼は破棄しろ』
「依頼は破棄したとしても、写真を燃やす理由にはならねぇだろうが!」
『二度と俺を探させねぇようにするにはこれしかねぇだろ』
写真一つ無くしたところで海が探せなくなるわけではない。どうせ西ノ宮がそのガキに告げ口すれば居場所など簡単にバレてしまう。
それでも、この写真だけは残しておきたくはなかった。
「……なぁ、海」
『銀時』
銀時の言いたいことは言われなくともわかった。きっと血の繋がりのあるその弟やらに会ってみないか?と言うに決まっている。
『俺にとっての家族はもうあいつらじゃないんだよ』
燃え尽きた写真を横目に銀時の方を振り返る。銀時は少し寂しげな表情をしたが、瞬きをした後にはいつものだらしない顔に変わっていた。
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