第40幕
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「深雪の遺体はすぐに生家に戻したよ。そっちの方にお墓もある。時間がある時にでも会いに行ってあげなさい。きっと喜ぶから」
『……わかった』
悲惨な最期を遂げたというのに、海は悲しみに暮れることなく、ただ事実として受け止めた。海にとって両親とは自分を捨てた存在という認識でしかない。
親と呼べる人はたった一人だ。その人とももう長らく会っていない。もしかしたらもうこの世に居ないのかもしれない。
海にとっての家族といえば、あの人の側で共に育った銀時。晋助と桂もきっと家族のように思ってくれているはず。その三人だけが海にとって一番近しい存在。
目の前にいるこの男が例え血の繋がりのある家族だったとしても、海にはどうでもいい事だった。
「海も死んでしまったと思っていたんだ。深雪が海を連れて屋敷を出たと聞いた時はすぐに探しに行った。探し出したと思ったら深雪は死んでいて、海の姿はどこにも無くて……海も天人に殺されてしまったんだと……そう思ったんだよ」
"だから生きていてくれて良かった"
そう言って俯いていた顔を上げた西ノ宮は涙を零しながら笑っていた。
「海、もう一度やり直さないか?長い空白の時間が空いてしまったが、私にとって大事な息子に変わりはない。大切な家族なんだ」
『俺はあんたとは一緒に暮らせない。俺の中ではもう貴方を親とは思ってない。俺の家族は別にいるんだ。』
「……そう、か」
落胆したように俯く西ノ宮。その姿を見て声をかけようかと思ったが、寸前でやめた。生半可の同情ほど辛いものは無い。
「そうか。家族がいるんだな」
『あぁ。だからあんたの元では──』
それはたった一瞬。西ノ宮から感じた怒気に海は眉を顰めた。
その理由を知ることなく、海の意識は別の所へと移った。来賓室の扉へと視線を向けたと同時にガチャリと開けられた扉。扉を開けたのは見知らぬ女性。
夜の仕事をしているのかと思ってしまうほどの派手な着物に濃いメイク。長い髪を高い位置で括った姿の女性は海の姿を視界に入れると、満面の笑みを貼り付けながら駆け寄ってきた。
「海くん!」
『誰だ……』
「海くん……海くん!無事だったのね……!」
笑顔から一変、泣きそうに顔を歪めた彼女は海を抱きしめた。鼻についたキツイ香水の香りに顔を顰めて彼女から離れようともがいたが、肩に置かれた手によってもがくのをやめた。
「その人は私の今の妻だ。海のことを話したらすごく心配していたんだよ」
困惑気味の海に西ノ宮は苦笑いを向け、#くっついたままの女性を海から引き離すように腕を引っ張った。
「やだ……ごめんなさい。私ったら……驚かせてごめんなさいね。今日あなたが来るって聞いたから嬉しくてつい……」
『あんた再婚してたのか』
「すまない。驚かせてしまったね」
『別に。俺には関係ねぇから』
西ノ宮が再婚していようが何をしていようが自分にはもう関係はない。そう言い切れば、西ノ宮は寂しげに笑った。
そして何かを思い出したように海の腕を掴む。
「海、先程の頼みは断られてしまったけど……これはだけは聞いてくれないかな」
『なに』
「弟に会ってやって欲しいんだ」
『弟……?』
「そう。私と彼女の間に出来た子供なんだけどね。どうやら海の存在に気づいたみたいなんだ。屋敷残ってたアルバムを見て」
『……死んだと伝えろ』
「そんなこと言えるわけないだろう?」
『俺はその弟やらの兄を名乗るつもりは無い。その子供を使って俺を戻そうとしても無駄だ。もうあんたとは今後は関わることはねぇ』
それだけ残し海は来賓室を後にした。
ストレスで痛む腹と頭を押さえて、近藤と松平が待っている外へと歩き出す。
『家族なんて……』
脳裏に浮かぶのは白い着物に銀髪の彼。気づいたら側にいてくれる存在。親の顔よりも見たあの顔を。自分を見て優しげに笑いかけてくれる赤目に。
『銀、』
今、無性に会いたかった。
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