第39幕
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それは幼少期の頃の記憶。まだ銀時が幼く、かつて先生と呼んだ男と共にいた頃の懐かしい記憶だった。
「銀時、今日はお友達が来ますからね」
そう言って優しげな笑みをした松陽を子供の頃の銀時は訝しげな顔で睨んだ。
「友達?俺に友達なんかいねぇよ」
「これからお友達になるんですよ。銀時ならきっとなれます」
「だから仲良くしてくださいね?」と釘を刺すように松陽は言った。別に友達なんて欲しくない。そう言おうと思ったのだが、松陽がしつこく仲良くしろと告げてくるので銀時は仕方なく首を縦に振った。
「こんにちは」
「ほら、銀時。来ましたよ」
凛とした女性の声が聞こえて銀時はびくりと驚いた。そんな銀時を笑いつつ松陽は銀時の背中をどんっと押す。腑に落ちない顔で玄関へと向かうと、そこにはとても綺麗な女の人が立っていた。
艶のある黒い髪は一つに結ばれて右肩から胸の方へと流れている。にこりと笑う顔も菩薩のような優しさに一瞬にして目を奪われた。
「あら……あなたは……」
女性は銀時を視野に収めるときょとんとした顔で銀時を見つめる。
「あ、え、えっ」
「ふふ……突然でびっくりさせちゃったね」
ふわりと花開くように笑う女性。白くて細い指先が銀時の頭へと乗せられて優しく撫でられた。
「わ、あ!?」
「ふふふ……可愛いね。ね、海もそう思うでしょ?」
そう言って女性はゆっくりと後ろを振り向く。ここにいるのが女性だけではないことに驚き、銀時の身体がビシッと固まった。
「お母さん……お家帰りたい」
「海、お家には帰れないの。これから海はここでお世話になるのよ」
「どうして?お家に帰れないの?お母さんどっか行っちゃうの?」
「……海……ごめんね」
海と呼ばれた子供が女性の後ろから顔を覗かせる。両手で母親の着物をしっかりと握るその子は母親から銀時へと目を移した。母親に似たのか顔立ちがとてもよく似ている。一瞬女かと思ったが、女性が呼んだ名前は男のもの。
くりっとしたまん丸の黒い瞳は涙に濡れ、じっと銀時のことを捉えていた。
「銀時くん、この子は海。私の息子なの。これからここで一緒に暮らすんだけど……仲良くして欲しいな」
「え、あ、おう……!」
女性は未だに自分の後ろにいる海の背を押して銀時の前へと立たせる。母親に無理矢理前に出された海は嫌々というように頭を横に振って母親の背後へ戻ろうとしていた。
「海、ダメよ。お友達にそっぽ向いたら」
「友達なんていらない!僕帰りたい!」
「海……そんな事言わないで」
悲しげに海を見つめる母親。二人のやり取りを黙って見つめていた銀時は小さくため息をついた。
「おい、わがまま小僧!」
母親の背に隠れようとする海に向けて一言怒鳴ると、小さな身体がこれでもかというほどビクついた。
「お前いい加減にしろよ。いつまで母親の陰に隠れてんだよ。それでも男かよ、だらしねぇな」
けっ、と鼻で笑って海をバカにするように言えば、相手は聞き捨てならないと不機嫌顔をしながら母親の背から顔を出した。
『どうしてそんなこと君に言わなくちゃいけないの』
「言われたくないならちゃんとツラ出せよ。それとも出せないようなツラしてんのか?ブッサイクな顔してんのかよ」
暴言を吐き散らかす銀時に母親は目を丸くし、海は顔を真っ赤にして怒った。
『違うもん!』
母親の着物を掴んでいた手は銀時へと掴みかかる。玄関先で転がるように揉み合う二人を母親は止めようと手を伸ばすが、その手を松陽が止めた。
「銀時、海。喧嘩するのはいいですけど、ちゃんと仲直りの方法は知っていますか?」
松陽が二人に声を掛けたのは互いにボロボロになった頃だった。
『僕悪いことしてないもん』
「はぁ!?お前が中々顔出さないのが悪いんだろうが!」
『だからってあんなに悪口言わなくたっていいじゃんか!ばか!ばかもじゃもじゃ!』
「もじゃもじゃ!?おま、天然パーマバカにすんなよ!この女男!」
『僕は女の子じゃないもん!ちゃんとついてるもん!!!』
「し、知らねぇよそんなこと!!!!!」
ぶわりと顔を赤くさせた銀時に母親と松陽はケラケラと笑い始める。海と銀時はそんな二人を見て顔を見合せて首を傾げた。
これが海と銀時の馴れ初め。第一印象こそ悪いが、この後ちゃんと仲直りを果たした二人はこの日の喧嘩が嘘のように思えるほど仲良くなった。
.