第30幕
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暗い夜道を一人歩く。
最近の辻斬りのせいで誰もいない寂しい道。当たり前だと言ってしまえばそうなのだが、普通の人間ならこんな時に外出しようとは思わないだろう。
『まったく……人騒がせな辻斬りだな。早く捕まれよクソが』
辻斬りのせいで巡回頻度が増えた。それだけならまだしも、犯人を早く捕まえなくてはならないという焦りも感じ始めている。そのせいで隊士たちは血なまこになって江戸中を駆けずり回っていた。
ただ、巡回してるだけならいい。自分の仕事だけに集中していれば。でも、犯人が捕まらないとなればそれだけでは済まない。町民たちから浴びせられる不信の視線。そして直接不安をぶつけてくる人達だっている。そんな人たちを宥めるのも自分たちの仕事だ。
クレーム対応などをした事の無い隊士たちはストレスで体調を崩している。その穴埋めで別の隊士が負担を背負うこの悪循環。
早く辻斬りの件が終わらせて、隊士たちを休ませなくては。彼らの管理も海の仕事のうちなのだから。
『……誰だ』
隊士たちの巡回ローテーションをどう組むかと考えていた時、鋭い殺気を感じて咄嗟に後ろを振り返る。
振り返った先はただただ暗い闇が広がっているだけ。それでもどこからか漂ってくる殺気。
腰にある刀へと手を伸ばし刀身を鞘から抜き、刀を構えた状態で目を閉じた。チリつくような殺気に意識を集中させて相手の気配を感じ取ろうと感覚を研ぎ澄ませる。
しんと静まり返っている町中で微かに聞こえた刀の音。瞬時に目を開けて音のした方へと刀を振りかざすと、真っ二つに切れた笠が足元に落ちた。
「おやおや……これは驚いたねぇ」
『てめぇ……どっかで見たツラだな』
「覚えていてくれているとは……至極光栄」
『そりゃあ覚えてるに決まってんだろうが』
ククク、と不気味に笑う男はゆらりとその姿を現す。
この男と会うのはこれで二度目だ。最初は銀時に似ていた赤ん坊の母親探しの時。あろう事かこいつは銀時を殺そうとしたのだから忘れるわけもない。
「……そんなにあの男がいいかねぇ。白夜叉といい閃光といい物好きのようだ」
『悪いな物好きで。家族に手を出されればこちらとて平静では居られねぇんだわ』
"白夜叉"と"閃光"。
それは海と銀時の昔の異名だ。戦争が終わった今となってはその名前を知っているものは限られる。あの頃、戦場にいた人間や天人、もしくは幕府関係者。海たちが動いていた時期はもう戦争終結間際だった。銀時たちの異名であれば、覚えている奴らもいるであろう。だが、海の異名を知っているとなると話は別だ。
『お前、一体誰なんだ』
影でコソコソと動いていた海の存在を知っているということは、あの戦争に従事ていた者か、それとも"誰かから入れ知恵"をされたかだ。
ここでこの男を逃がすのは後々自分の首を絞めることになるかもしれない。
手にしていた刀を強く握りこんだ時、ズキッと右手に激しい痛みが走った。
今朝、湯呑みを割った時に出来た傷だ。先程は気にもしなかったのだが、こうしていつもの様に力を込めると痛みが出る。真っ白だった包帯は徐々に赤くなっていき、まだ傷の状態が良くないことを悟った。
「待ちわびたよ……お前さんと刀を交えるのを。その前に摘み食いをしてしまったがねぇ」
『摘み食いだぁ?そんなことしてたらお母さんに怒られんぞ』
「母親か。そんな生易しいものではなかったがな」
『それはそれは。なら父親にでも引っぱたかれたのか』
「くっ……面白い男よ。ここで殺すのは惜しいな。だが、お前の血を欲しているんだよ……この紅桜が」
似蔵は持っていた刀を自慢げに天へと翳す。月に照らされて見えた刀は海の持つ刀とはまるで違う。その異様な輝きをする刃に海は目を細めた。まるで血のような赤。今まで斬ってきた人たちの血液を飲み込んだかのような。
「さぁ、殺り合おうじゃないか」
赤く光る刀を構えて海の懐へと飛び込んでくる似蔵。腹部目掛けて突き入れられた刀を弾き、相手の脇腹を蹴りあげる。
確かこの男は居合斬りの達人だと新八が言っていたはずだ。
『それで居合斬りの達人か。普通の人間だったら確かに目にも止まらぬ技になるだろうが……まだ遅い方だな』
まだ視認可能な速さ。似蔵の刀を己の刀でわざわざ弾いたのは嫌味。そんな遅さで達人と名乗るのか?という煽りだった。
「流石は閃光。俺のこの早さでも見抜くか。だが、これは俺の力だ。こいつの力を使ってもまだそんなことが言えるかな?」
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