第38幕
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『すみません、騒がしくて』
「構わん。それほどおぬしを慕っておるのだろう」
『それで、自分になんの御用でしょうか』
やっと騒がしいのが居なくなった。近藤と片栗虎がここに居るのは海としてもあまり良くない。
話の内容がもし己の過去についての糾弾であるなら尚更だ。
海は自分が呼び出された理由は何かと聞いたが、男たちは暫し口を閉ざす。海を品定めをするように無遠慮に向けられる視線に無意識に眉を顰めた。
「おぬしに会わせたい人物がいてな。わしらがよく世話になっている者よ」
『はぁ……俺なんかに、ですか』
予想していた内容とは大きく外れた回答に海は虚を突かれる。その為、一言目に気の抜けた返事をしてしまい、表情には出さなかったが内心では焦った。己の失態で近藤と片栗虎が叱責されるような事があってはならない。
想像していた話とは違う内容に安堵していた気を引き締め、男たちの話に耳を傾けた。
その時、背後に感じた気配に気づいて咄嗟に振り返った。暗闇の中に誰かがいる。その誰かを探るように見つめるが、顔を認識することは出来なかった。
「ぬしに会うのを心待ちにしていたそうだ。わしらもこうして再会の場に立ち会えて嬉しいものよ」
『再……会?』
再会という言葉に海は怪訝な顔を浮かべる。
「もう覚えてないかな?」
『誰だ……』
「そんな寂しいこと言わないでくれよ……と言っても仕方ないか。最後に会ったのは随分と昔だからね」
暗闇の中から明るく照らされている海の元へとゆっくり歩み寄ってきた男。緩い笑みを顔に貼り付けて人当たり良さそうな雰囲気を醸し出す男。
そいつは海を知っているような口ぶり。必死に記憶の糸を解いてこの顔を思い出そうとしてみたが、この男の顔を思い出すことが出来なかった。
「ほんとに忘れちゃったんだね、海。まぁいいさ、空いてしまった期間の間をこれから埋めていこう」
コツリと男の履く革靴の音が響く。その音はやけに大きく聞こえた。海との距離を縮めようとしてくる男から逃げるように後ずさろうとしたが、男は海の右手を手に取って逃がさないようにと強く握ってきた。
「おかえり、海。また一緒に暮らそう」
『な、に言って……』
「ふふ……そんなに身構えなくていいんだよ。なんも怖いことはないのだから」
男は満面の笑みで笑いかけてきていたが、どうにもその笑顔には裏があるようにしか見えなかった。何か含みのある不気味な笑み。その顔に海は嫌悪感を晒す。
『あんた誰なんだ』
「……そんな怖い顔しないでくれよ。父さんは笑って海と話がしたいんだけどな」
『は……?』
この男は今なんと言った?自分の耳が正しければ、今しがた"父"と言わなかったか?
「こほん……親子水入らずの再会で申し訳ないが、その続きは他所でやってくれぬかの」
「ええ、そうさせていただきます。さ、海行こう」
冷水を頭からかけられたかのような寒さを感じて身を震わせる。この状況を理解しようとしたが、父という単語に思考が全て持っていかれてしまってまともな考えなど出来なかった。
そんな海を知ってか知らずか、男は海の背中を押す。
「やっと、見つけたよ。愛しい我が子よ」
ぼそりと耳元で呟かれた言葉に海は呆然と地面を見つめた。
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