第38幕
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「こんにちはー」
からからと音を立てて戸を開き、いつものように新八は万事屋の敷居を跨いだ。ふと、足元に目をやると見慣れない靴がある。銀時の黒いブーツと神楽の靴の横に並んでいる革靴。
銀時の友人でも来ているのだろうか。それにしては立派な靴だ。銀時の交友関係を考えると、この靴はあまりにもこの場所には不釣り合いだ。一体誰が来ているのだろうか。ワクワクした気持ちで部屋へと向かった。
「神楽ちゃん?なんでこんな所に突っ立ってるの?」
「銀ちゃんにお客さん来てるネ」
「うん。知らない靴があったからそうなんだろうけど……」
「ガキが一丁前に大金持ってたヨ。まったく、世も末ネ」
「よく分からないけど……その人は依頼人なの?」
「うん。人を探して欲しいって」
「人?」
ケッ、と神楽は居間の方を見て渋い顔を浮かべる。そんな神楽を放って、ソファの近くへと歩み寄った。まず、視界に入ったのは銀時。ソファにダルそうに座りながら面倒くさそうな顔をしていた。
銀時の向かい側にいる人物。新八のいる所からでは顔を窺い知ることは出来なかったが、なんとなく雰囲気が幼い。顔を見ようと移動した時、相手も新八の気配に気づいたのかこちらへと顔を向けた。
「あ、こんにちは!」
「こ、こんにちは!あっ、今お茶出しますね」
新八を視界に映すと元気に挨拶をする男の子。新八よりも少し年下……いや、下手したら神楽よりも下かもしれない少年だった。
とても立派な着物を着込んでいるところから、とてもお家の良い坊ちゃんなんだなと新八は察した。
「んで、人探しって誰よ」
新八がお茶を汲んでいる間に銀時が本題へと入る。依頼人である男の子は銀時を真っ直ぐ見つめて口を開いた。
「兄を探して欲しいんです」
「兄貴だ?名前は?」
「わかりません」
「はァ!?名前も分からねぇ兄貴をどうやって探すんだよ!そこら辺で迷子になったガキを肩車しながら、迷子ですー!この子のお母さんいらっしゃいませんかっー!って探すのか!?」
「う……」
銀時が叫ぶように捲し立てると少年は体を縮こませて俯いた。
「銀さん!そんな言い方しなくったっていいじゃないですか!あ、これはい、お茶」
「ありがとうございます」
びくつく少年の前に湯のみを置く。彼は新八に苦笑いを浮かべながらお礼を言い、湯のみへと手を伸ばした。銀時に一喝されたせいか、手が震えているのを見た新八は溜息を零してキッと銀時を睨む。
「ちょっと銀さん!依頼人を怖がらせるなんてどういうつもりですか!」
「怖がらせてなんかねぇよ!名前もわからない、どこに住んでるのもわからない、会ったこともねぇんじゃ探しようがねぇだろうが!!」
「あ、会ったことはないですけど!写真ならあります!」
「写真?」
そう言って少年は懐から一枚の写真を取り出し銀時へと見せる。色褪せた写真を銀時が受け取ると、その両サイドから神楽と新八が写真を覗き込むように見た。
「……これ、いつの写真ですか?」
「だいぶ前のものです。今は……生きていたら大人になってるはずです」
「この写真じゃ古すぎてわからないですね……他に写真ってあります?」
「いえ、それしかアルバムにはなかったんです。その一枚だけが兄がいたという証拠なので」
「銀ちゃん、こんなんじゃ探せないネ。……銀ちゃん?」
「銀さん?」
写真を見たまま固まる銀時。二人はそんな銀時を訝しげに見つめる。じっと銀時が見つめるのは写真に映る三人の家族。父親と母親に挟まれるように真ん中に立っている幼い男の子。母親に手を繋がれて幸せそうに笑っているのがなんとも微笑ましい。
「おい、ガキ。この写真どっから持ってきやがった」
「え、家のアルバムからですけど……?」
「お前名前は」
「西ノ宮 朔夜です……」
「西ノ宮……」
その苗字に心当たりがあるような呟き方に三人は銀時の顔を黙って見つめた。
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