第37幕
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「んで?なに?あんたは付き添いで来たってわけ?」
「……あぁ」
「ならもう帰っていいよ。そっちまでは俺が送っていくから」
海と二人きりの良い雰囲気……となるわけもなく、土方の咳払いと神楽のジト目で場の空気はぶち壊された。
神楽が海を室内へと連れて行ってしまったので、玄関先に残ったのは自分と仏頂面した土方の二人。
ただでさえ仲が良くないのに、今回の一件で殊更悪くなった。出来れば関わりたくないと思うほどに。
海が関係してるから仕方なく声は掛けるが、用がなければ目を合わせることもしたくない。それは銀時だけでなく、相手も同じ気持ちだろう。
「少し居させるだけだ。すぐに連れて帰る」
銀時の方を見もせずに土方は呟く。まるで独り言のように聞こえる言葉にため息をつきたくなった。
あまりにもわかり易すぎる態度。別に今気づいた訳では無い。だが、あからさま過ぎる態度に危機感よりも呆れが出てしまった。
「ちょっと過保護過ぎない?束縛系はモテないよ」
「お前には関係ないだろう。アイツはウチのもんだ」
「ふーん。"仕事"ね」
「何が言いたい」
「別に?アンタは仕事でしか関係性がないのかもしれないけど、俺は違うから」
上司と部下という形でしか海を縛れない哀れな男に銀時は緩い笑みを浮かべた。土方よりも自分は優位に立っている。お前に勝ち目などない、とでも言うように。
暫しの沈黙の後、中から神楽の叫び声が聞こえた。
必死に海を呼ぶ神楽の声にただ事ではないと察し、慌てて中へと駆け込んだ。
ソファのある部屋へと土方と共に駆け込んでみると、そこには床にぺたりと座り込んだ神楽。そして怯えた顔で神楽を見つめている海の姿があった。
「おい、何があった?」
「ぎ、銀ちゃん……!」
「なに騒いでんだよ。海、お前もそんな所でなにして──」
『俺が……俺が神楽を……』
ボソリと海は呟く。カタカタと身体を震わせながらその場に座り込み、泣きそうな顔で己の両手をじっと見つめた。
「海?」
『神楽を……俺はあの時神楽を斬ったんだ……』
海の言うあの時は分からないが、きっと高杉の手に落ちていた時のことを言っているのだろう。薬を使われていた時の海は高杉の言葉を忠実に守っていた。海の意思はねじ曲げられ、高杉の良いように操られていたのだ。
『俺……どうし……て』
まだ完全に治ったわけじゃない。まだ海の中に残っている。
「海、」
呼んだだけなのに海はびくりと肩を震わせる。
怖がらせないようにゆっくりと近づき、あと一歩で手が届くという所で足を止め、床に膝をついた。
「海、神楽は大丈夫だから」
『でも……!』
「ほら、ここにちゃんといるだろ?」
神楽を手招きして呼び寄せ、自分の隣に座らせる。神楽の姿をちゃんと見た海はホッとした表情を浮かべた。それでもまだ身体の震えは治まらないのか、手を強く握りしめていた。
「そんなに怯えなくても大丈夫だから。うちのお嬢さんが頑丈なのは知ってるだろ?」
『でもあの時確かに……』
「私海に斬られてないアル」
『は……?』
「斬られる!って思ったけど、海すぐに刀を逆にしてくれたネ。だから斬られてないアルよ」
刀を逆にした。ということは峰打ちをしたということ。斬りつけたのではなく殴りつけたのだ。だからこうして神楽はピンピンしている。
きっと、高杉に神楽を殺せと言われていたに違いない。薬で意識が朦朧としている中でも海は神楽を守ろうと咄嗟に刀の向きを変えたのかもしれない。
「よく頑張ったな、海」
状況を理解してない本人は戸惑いの顔で神楽と銀時の顔を交互に見る。
「やっぱ海はいい男アル。ぱっつぁんとは大違いヨ」
「当たり前だろうが!海は元々良い子なんですー。あんな変態メガネと一緒にすんな」
「銀ちゃんと海が仲がいいのも不安ヨ。海が銀ちゃんに毒されないか」
「てめ、俺がいなかったら海と会うことは無かったんだからな!?」
「そんな事ないアル。海が困ってる女の子見捨てるわけないネ」
「何が困ってる女の子だ!飯に釣られただけだろうが!」
ギャーギャー喚いていると、不意に笑い声が聞こえた。
『お前ら……ほんとにしょうもない事で喧嘩するよな』
くくく、と小さく笑う海。その顔にはもう怯えは消え失せ、恐怖でカタカタと震えていた身体は今度は笑いで震えていた。
神楽と顔を見合わせて互いに笑い合う。元気になってくれて良かった、と。
「(あれ……なんか忘れてるような)」
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