第37幕
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「おい!誰かいねぇのか!」
万事屋の引き戸を乱暴に開け放ちながら土方はズカズカと中へと入っていく。これでは出てきた銀時と喧嘩を始めそうだと頭を抱えた。
新八が出てきてくれたらそんなに騒ぎにはならないだろう。頼むから大人しいやつが出迎えてくれと祈ったが、海の思いは虚しく万事屋で二番目に騒がしい人物がひょこりと顔を出した。
「なにしに来たアルか。マヨラー」
「用があるのはてめぇじゃねぇ。あいつはいるか」
「銀ちゃんなら今仕事行ってるネ」
「だとよ。どうすんだ?」
銀時は居ない。だから帰るぞとでも言いたげな顔で土方はこちらを振り返る。居ないのであれば仕方ない。今日のところは引き返して、また明日にでも来ればいいだろう。
『そう、か』
頭で分かっていても、気分的には納得がいかない。土方に肩を押されて帰るように促されたが、その場から動く気にはなれなかった。
「海?海いるアルか!?」
土方の来訪に不機嫌そうな顔をしていた神楽だったが、海が居ると気づくなりコロッと態度を変え、笑顔で海の前へと駆け寄ってきた。
久しぶりに見た神楽は元気そうで、ホッとしたのもつかの間。何故かゾワリと鳥肌が立った。
「心配したヨ!会いに行こうと思ったけど銀ちゃんがついてくるなってうるさいから行けなかったネ。元気そうで良かったアル!」
はしゃぐ神楽と打って変わって海は青ざめた顔で神楽を見下ろす。
その表情に気づいた土方が神楽を止めようと手を伸ばしたが遅かった。
「おいっ!」
「海?どうしたアルか?まだ体調悪いの?」
神楽が心配げな顔で海に手を伸ばしてくる。
真っ赤に染まった手が助けを求めるかのように伸ばされる。その手を取ろうとした海の手には刀があり、切っ先は真っ直ぐと神楽へと向けられていた。
『かぐ……ら』
このままでは傷つけてしまう。彼女から離れなければ。
そう思って海は後ずさりした。この場を離れて一旦落ち着かなければ。今の自分は何かおかしい。神楽に刀を向けるなんて普通では無い。
逃げるようにそこから離れようとしたが、動揺が足にも伝っていて上手く動かせない。
「海!!」
土方の大きな声にハッと我に返ったとき、背後にあった階段を踏み外していることに気づいた。慌てて手すりを掴もうと手を伸ばしたが届かず、ゆっくりと身体が傾いていく。驚く神楽とこちらへと必死に手を伸ばす土方を呆然と眺めた。
多少の痛みは仕方ない。そう思って身を縮こませたのだが、予想していた痛みはやってくることはなかった。
「なーにやってんのよお前たちは」
海の背中を支える手とふわりと香った甘い匂い。声のした方へと顔を上げると、そこには困った顔をした銀時が立っていた。
「銀ちゃん!」
「こんなとこで何やってんのよ」
土方と神楽に問いかけてから海の方へと銀時は顔を向けた。
「もう体調の方は大丈夫なのか?」
『とりあえずは』
「病み上がり……っていうかなんというか。まぁ、元気になったのならいいけど……無理してひょこひょこ出掛けてたらまた具合悪くなるだろ」
階段から落ちそうになったのを銀時は体調のせいだと思っているのか、支えている手が背中から離れることは無かった。もう大丈夫だと声をかけても、海の側から離れる気配は無い。
『悪い』
「怒ってるわけじゃねぇよ。心配なだけ」
分かった?と聞かれ、分かったと頷く。ただそれだけなのに何故か銀時はとても嬉しそうに微笑んだ。
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