第30幕
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『巡回を変わって欲しい?』
「はい……相棒がここんところ体調が良くなくて……休ませてやりたいんです」
『わかった。あんま無理しないようにって伝えといてくれ。それと、お前はそいつについててやれ。なんかあった時、そばに居た方がソイツも安心するだろ?』
「すみません……ありがとうございます」
夜、部屋で書類に手をつけていた海の元へとひっそりと来た一人の隊士は申し訳なさそうに頭を下げながら夜に予定されていた巡回を変わって欲しいと頼み込んできた。
二人一組として組んだパートナーが最近の忙しさで倒れて寝込んでいるとのこと。
体調を崩して巡回に行けなくなっている隊士は彼らだけではない。ちらほらと体調不良訴えている隊士たちが出てきているのだ。本格的に動けなくなってしまう前に彼らを休ませなくてはならない。
己の右手をちらりと見てから海は隊士に部屋に戻るよう促した。彼の視界に包帯が入らないように隠しながら。
部屋から出ていっても隊士は何度も海の方を振り返って申し訳なさそうに頭を下げる。そんな彼に苦笑いを浮かべながら左手をヒラヒラと軽く振って見送った。
『さて、行くとするかな』
頼まれたのであればやるしかない。衣紋掛けに掛けてあった上着を手に取り刀を腰に差して襖を静かに閉めた。巡回に行こうと玄関へと向けて一歩踏み出したが、近藤の言葉を思い出して苦虫を噛み潰したような顔をした。
"パトロールは二人一組で行うように。決して一人で行かないようにな!"
必ず誰かを連れて行動しなくてはならない。これは近藤からの命令だ。無視すれば命令違反になるだろうし、一人で行ったことがバレれば他の隊士たちからも文句が飛んでくることだろう。
局長命令であれば仕方ないのだが、今の状況でついてきてくれる人間が果たして居るのだろうか。前もってわかっていたことならば、土方や総悟に声をかけておくこともできた。だが、今日は書類に明け暮れるつもりでいたから彼らに巡回の話など一切していない。
『部屋にいてくれればいいんだけどな……』
真っ先に向かったのは土方の部屋である副長室。海の部屋からさほど離れておらず、少し歩いただけでたどり着く距離だ。
出来れば部屋にいてほしかった。だが、淡い期待は見事に打ち砕かれる。
『土方……はまだ戻ってないか』
明かりのついてない部屋は真っ暗で、襖越しにもまだ部屋の主は帰ってきていないことがわかった。土方も今回の一件で上から説教を食らっているはずだ。今日はその話が長引いてしまっているのだろう。
ならばと踵を返して別の部屋へと向かう。近藤や土方が居ない状態ならあとは総悟に頼むしかない。
そう思って総悟の部屋にも行ったのだが、総悟も部屋に居ない状態。
『おいおい……どうすんだよこれ』
巡回についてきてくれそうな相手がいない。
「あれ?海?」
『あー……原田か』
どうしたものかと廊下のど真ん中で頭を抱えて悩んでいたところに原田がひょこりと顔を出した。
「どうしたんだ?こんな所で」
『いや、大したことじゃないんだけど……』
「なんだ?一人で便所に行けないとか?」
原田はゲラゲラと笑いながら「まだまだ子供だなぁ」と海の肩をポンポンと叩く。
「お前だって巡回やら書類処理とかで疲れてるだろ?ちゃんと休める時に休んどかねぇと、いざって時に動けなくなっちまうぞ?」
『わかってる』
原田からの忠告に対して素直に頷くと、彼は満足そうにニカッと笑った。
そんな顔を見てしまったら頼み事なんて出来ないだろう。
「どうした?」
『いや、なんでもない。原田もちゃんと休めよ?』
「おう。ありがとな!」
海の横を通り過ぎていく原田の姿をじっと見つめ、相手がいなくなったのを確認してから大きなため息をついた。
隊士たちの負担が徐々に大きくなってきている。言葉ではなんでもないようにしているが、明らかに疲労が溜まっている状態だった。他の隊士たちに比べて体力のある原田でさえも疲れきった顔をしていたのだ。これでは誰にも頼めないだろう。
『仕方ない、か』
局長命令を破ることにはなる。でも、誰かの負担を増やすくらいなら一人で行く。
何事もなく済ませ、尚且つ誰にもバレなければいいのだ。あわよくば辻斬りの犯人を捕まえることが出来れば、なんて甘い考えを抱きながら海はそっと門へと向かった。
.