第36幕
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「海、入るぞ」
襖を開けて静かに部屋の中へと身を滑り込ませる。布団の上で大人しく座っている海を見てほっと息を吐いた。
またどこかふらりと消えてしまっているんじゃないかという心配はなさそうだ。
中へと足を踏み込んで後ろ手に襖を閉める。声をかけても海は銀時の方を見ようせず、ぼうっと一点を見つめたまま。
「あいつらには一応話しといたから。高杉とかの名前は出してねぇから心配すんな。ただ、誘拐されて人質として捕らわれてたって言っといたからよ」
微動だにしない海に苦笑いを零しつつ、銀時は黒髪へと手を伸ばして、髪を梳くように頭を撫でた。
「海……早く元気になれよ?新八と神楽や桂、気に食わねぇけどここの奴らも心配してる。だから早く戻ってこい。待ってるから」
急ぎはしない。でも、少しでも早く治りますようにと願いを込めて海の頭を優しく撫でた。また彼の元気な笑顔が見れますようにと。
「……海、そろそろ帰るな。あんま遅くなると神楽がまた喚くからよ」
頭から手を離して立ち上がる。名残惜しそうに海を見てから背を向けて一歩踏み出した。その時に羽織りがなにかに引っかかったらしく、くんっと引っ張られた。
うん?と首を傾げながら振り返ると、羽織りの先には細い指先。その光景に目を見開き、先程まで座っていた場所へと転がるように戻った。
「海ッ!!わかるか!?」
『ぎ……ん』
「あぁ、俺だ!銀時だ!」
『……ぎん』
海はゆっくりと顔を上げて銀時を視界に映す。まだその瞳は虚ろだが、しっかりと銀時の事を見ていた。
「海……!」
泣きそうになるのを堪えつつ弱々しい海の体を抱き締める。銀時の背中に腕が回ることは無かったが、それでも構わないと抱きしめ続けた。
『ぎん、かえる……の』
「ごめんな。お前も連れていってやりたいけど、んなことしたらここのヤツらに殺されかねないからな」
『そう……かえるの』
寂しそうに俯く海に胸がぎゅっと締め付けられる。今すぐ抱き上げてこんなところから連れ出したい。自分の手元に置いて、どこにも行かせたくない。そんな思いが一気に溢れ出すが、心の奥底へと沈めた。
「また明日来る。必ず」
『……う、ん』
「海」
『ん……?』
「おかえり」
潤む目でにこりと笑う。ああ、今きっと酷い顔してるんだろうななんて思いながら。
『た、だいま。ぎん』
海はぎこちない笑みを浮かべながら銀時を見てゆっくりと目を閉じた。倒れゆく身体を支えて布団へと戻す。眠る顔は前よりも穏やかそうだった。
「おかえり……海」
海が自分のことを認識してくれた。その事がとても嬉しくて、今にも飛び上がりそうな気持ち。
でも、まだ油断は禁物だ。これからどうなるかわからない。薬物を投与した人間の末路は嫌という程知っている。海がそうならないとは言いきれないのだ。
寝顔を暫し見つめたあと、銀時は来た時と同じようにそっと部屋を出た。
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