第30幕
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「ほら、座れ」
医務室へとつくなり椅子に座ってろと肩を押される。傷の手当てをしてもらおうと来たのだが、今の時間はまだ誰もいないらしく、しんと静まり返っていた。
そのため土方が消毒液や包帯等を棚から取り出してきてくれているのだが、どれをどう使えばいいのかと箱と睨めっこしている状態。これなら自分でやった方が良いような気がして腰を上げたのだが、土方に睨まれて椅子へと戻った。
「それにしても未だに犯人が見つからねえってのが厄介だ」
『相手は単独犯って決まったのか?』
「いや、ここまで逃げ仰せてるんだ。幇助している奴が居るんだろう」
『協力者か。めんどくせぇなそうなったら』
傷口の周りの血を消毒液に浸した脱脂綿で拭き取る。手当てに不慣れな土方のやり方では消毒液が傷口に直接入り込んでズキッとした痛みを生む。
眉を顰めたが土方は気づいていないらしく、手当ては止まることなく進められた。
「巡回は強化したがなんも出てこねぇ。これじゃ真選組の名が廃る一方だ」
辻斬りの犯人が見つからないことに町民たちは不安を募らせている。夜間外出は愚か、昼間の外出でさえも辻斬りに襲われるのではないかと怯えて控えているらしい。
見回りの時によく声をかけてくれる八百屋のおばさんが、この間困った顔で海に聞いてきたことがあったのをふと思い出す。
"辻斬りが起きてるらしいけど大丈夫かい?捕まえられそうかい?"
その問いに海は答えることが出来ず、無言で頭を下げた。不安な思いをさせてすみません。怖い思いをさせてごめんなさい、と。
「ほら、これで大丈夫だろ」
土方に声をかけられてハッと我に返った。いつの間にか傷の手当ては終わっていて、右手には綺麗に巻かれた包帯。
『ありがとな』
「次からは気をつけろよ」
『ん、悪かった』
土方が使い終わった消毒液を片付けているのを横目に、海は包帯が巻かれた右手を軽く握る。少し動かしただけなのに右手全体に広がる痛み。利き手である右手がこれでは筆を持つのも刀を握るのも難しいかもしれない。
「巡回行くなら総悟を連れてけ」
『そうする……土方は?巡回誰と行くんだ?』
自分が総悟と一緒に行ってしまっては土方は誰と組むというのか。辻斬りのせいで二人一組になった今、誰かしらは連れていかなくてはならない。元々、海はデスクワークを担っていることが多かったため、見回りの相方は固定されていないのだ。
「今日は近藤さんから呼び出しがあって出られねぇ。一緒に行ってやりてぇのは山々だが」
『いや、来なくていいけど』
「てめぇ、聞いといてそれかッ!」
『何となく聞いただけだから。まぁ、心配すんな。右手が使えなくても左手がある』
「左手で刀を振れるのかよ」
『……初めての試みだな』
「心配しかねぇわ!!むしろお前、もう今日巡回に出るな!」
『そんなこと出来ないだろ。たかが怪我したくらいで巡回休めるほど今は暇じゃない。辻斬りだって一刻も早く捕まえないといけないのに』
「それはそうだが……」
海の言葉に土方は口篭り苦々しい表情を浮かべる。土方が言いたいことはわかっているのだが、今はそれに甘えているような余裕は無い。
『まぁ、土方の手を煩わせるようなことはしねぇよ』
「お、おい、海!」
『じゃ、俺は書類残ってるからそれ終わらせてくるわ』
手当てありがとな、と一言残して海は土方に背を向けて医務室を出た。
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