第34幕
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
また子と武市を神楽と新八に任せ、桂は漸く高杉の元へとたどり着いた。だが、その場には高杉しか居らず、海の姿はない。
「ヅラ、あれ見ろ。銀時が来てる……紅桜相手にやろうってつもりらしいよ。ふふ……相変わらずバカだな。生身で戦艦とやり合うようなもんだ」
高杉が見つめている先を桂も見上げる。
屋根の上に立つ銀時と自分を殺そうとして失敗した男。
「もはや人の動きではないな。紅桜の伝達指令についていけず体が悲鳴を上げている。あの男、死ぬぞ。貴様は知っていたはずだ。紅桜を使えばどのようなことになるか。仲間だろう、なんとも思わんのか」
「ありゃあいつが自ら望んでやったことだ。あれで死んでも本望だろう……それに、本当に大切な仲間であれば紅桜なんて物騒なもんを持たせはしねぇよ」
そう言って高杉は桂の後ろへと目を向ける。その顔は酷く歪みきった笑顔だった。
背後から感じた殺気に身体が震える。戦場でも感じたことの無い殺気が桂を包む。ゆっくりと首を絞められているような感覚に息が詰まった。今すぐにでもこの場から逃げ出したい。でも、この殺気を飛ばしてきている人物を確認しなければここから離れられない。
きっとその人物は自分がよく知る人間だから。
「貴様……あいつに何をした!答えろ!」
「なに、ちょっとばかし……壊しただけよ」
"壊した"
淡々と言った高杉の顔は寂しそうに見えた気がした。
桂が高杉を追うべく歩いてきた道から聞こえてくる足音。徐々に見えてきたその姿は昔よく目にした服装の海。
「海……お前ッ!」
名前を呼んでも海はぴくりとも反応しない。ただ、桂に向けて殺気を放ち続けている。
海の瞳からは一切の光が失われ、人形のように何も映していなかった。
「高杉ィィ!!」
「クク……お前がこいつに勝てんのか?蒼き閃光と謳われた海に」
高杉は楽しげに空に向かって嗤う。絶望している桂に向けた笑みでもあり、今紅桜と戦っている銀時にも向けたものだろう。
海を手中に収めるためにこんな事までしたのか。海の人格を破綻させ、人形のような抜け殻にして。そこまでして海を欲するのか。
「高杉ッ!!お前はこんな海を見て何とも思わないのか!!」
「こいつが居りゃァそれでいい」
人形だろうが、なんだろうが構わない。海が居ればそれでいいと呟いた高杉に桂は呆然と見つめた。
心からそう思っていない。直感的に桂はそう感じて、高杉へと非難の声を浴びせようと口を開く。だが、その声は高杉に届くことなく消えた。
腹部には一直線に斬られた跡、そこから噴き出した血が足元を濡らす。海が刀を抜いた音さえ聞こえなかった。
「ぐっ……!海!俺のことがわからないのか!」
必死の訴えも虚しく、海は桂に向けて刀の切っ先を向ける。なんとかして海を元に戻さなくてはと頭をフル回転させて考えたが、戻す方法なんて見つかるわけもなかった。
そうこうしてるうちに海は構えていた刀を桂へと振り下ろす。その切っ先は確実に首を狙っている。傷を押さえながら海の剣を避けるのは難儀なこと。素早い彼の動作を全て見切るには体力も視力も間に合わない。
「海!!目を覚ませ!お前はこんなことが出来る奴ではないだろう!」
昔から同士討ちを苦手としていた海。仲間内で裏切りがあったとしても、海は最後までその相手を信じて斬ることはしなかった。その度に銀時に怒られていたのを桂は知っている。この場にいる高杉もだ。
だからこそ、桂はここで死ぬわけにはいかない。もしこの後、海が正気を取り戻すことがあったら。その手で友人を殺したなんて知ったら今度こそ海の心が壊れてしまう。
「ふざけるな……海の意思を壊してでも手に入れるだと!?そんなこと許されるはずがない!貴様は本当にそれで海がそばに居ると思えるのか!?」
「コイツに無駄な感情なんていらねェ。ここにいればいい、俺の隣にいればそれでいい」
「高杉……もはやそれは恋慕なんかではない……お前のそれは……!」
「狂ってるってか?」
「考え直せ!高杉!!」
──考え直すも何も、もう海は戻らない。
まるで全てを諦めたかのような顔の高杉に舌打ちを漏らす。元々、独占欲の強い男だと思っていたが、ここまで酷くなっていたとは知らなかった。
これならまだ銀時の方がマシだ。海のことを過保護に守り続けてはいたが、海の意思をねじ曲げる様なことはしなかった。あの男は純粋に海のことを好いていたから。
「(ここまで醜くなったのか、高杉!)」
手に入らなければ無理矢理にでも奪えばいい。そんな考えが通用すると思ったら大間違いだ。
.