第34幕
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「安心しました」
「あ?」
鉄子が帰った後、銀時は布団へと戻った。お妙はそんな銀時にホッとしたような表情を浮かべてポツリと呟く。
「行くんじゃないかと思ったから。そんな体でも」
「ふん……」
「そんな体で行っても死んじゃいますもんね」
「そうだな」
「あの女の子には申し訳ないですけど、仕方ないですよね」
「そうだな」
しつこく仕方ない仕方ないと繰り返すお妙に銀時は背を向ける。
「銀さん、あんまり無茶するのはもうやめてくださいね。銀さんがいなくなったら新ちゃんも神楽ちゃんも……海くんも困りますから」
「そうだな」
「昔は銀さんもいろいろやんちゃやってたようだけれども、もうそんなことする歳じゃないですもんね」
「しつけぇんだよこの野郎!もうどこにも行かねぇからちょっとジャンプ買ってこい!お前、さっき買ってきたの赤マルだぞ!お母さんみてぇな間違いしてんじゃねぇよ!」
あまりにもしつこいお妙に銀時は飛び起きて玄関の方を指差す。早く行けと急かすように言い放てば、お妙は文句言わずに玄関へと向かった。その背中を見送ってから布団へと倒れる。彼女が完全に万事屋から出ていったのを見計らって銀時は動き出した。
「俺だっていい年こいてやんちゃなんかやりたくねぇけどよ」
それでも行かなくてはいけない理由がある。きっと、アイツは待っているだろうから。自分が助けに行くのを。
必ず護ると幼い頃、海に約束した。何があっても護り続けると。
侍が果たせぬ約束をするものではない。確かそれは似蔵に言われた言葉だ。そんなこと言われなくたってわかっている。
痛む腹を押さえつつ玄関先へと向かう。普段、何も置かれていない場所にちょこんと置いてあるもの。綺麗に畳まれた海の隊服と自分の着物。その横に女物の傘と紙が一枚置いてあった。
"私のお気に入りの傘、あとでちゃんと返しに来てくださいね。その時は海くんも一緒にじゃないとダメですから"
海に何があったのかは知らないはず。それでも何か察したのか"海くんも一緒に"の所がやけに強調されていた。
「ったく。ほんとにアイツは懐かれすぎるんだよ」
悪態つきながら銀時は畳まれた服へと手を伸ばし袖に腕を通す。
海とお妙の接点なんて数えられるくらいしかないはず。それなのにいつの間にかこんなにも懐かれていたとは。女子供に優しい海の事だから銀時の知らない間にお妙と交流があったのだろう。
「それはそれでなんかムカつくんですけど」
自分の目の届く範囲ならまだしも、知らない間になんてモヤッとする。しかも相手は女だ。なんかのタイミングで海に惚れる可能性だってある。
女でなくてもムカつくけど。
子供の頃は海に引っ付くことで虫除けが出来たが、今はそう簡単には出来ない。住んでる場所も違うし、仕事だって違うのだから。
「……やめたやめた。こんなこと考えても無駄だわ」
考え込もうとする頭を左右に振ってドツボにハマりそうになった思考を振り払う。今はそれどころではない。あのクソチビの元に囚われてしまっている海を助け出すのが先決だ。虫除け対策なんて後で考えればいい。
自分の服の横に置いてあった海の上着。その胸ポケットに御守りを戻し、己の着物の中へと入れる。立て掛けてある刀を一度手に取ってから銀時は元の場所へと戻した。持って行ったとしても自分は使えないし、海に渡すのもなんか嫌だ。助けに行くのに一緒に戦ってくれって言うのはちょっと情けない。
「さて……お迎えに行きますかね」
いつもの木刀を腰に差して戸を開ける。空は薄暗く、パラパラと降っている雨は気分を憂鬱とさせるが、銀時は落ち込む気分を蹴散らすかのように強く一歩を踏み出した。
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