第33幕
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『なんだ……?』
「来たか」
突如として船に響く重低音に海の肩が跳ねる。船がぐらりと傾き、置いてあった箱などがガタガタと音を立てて倒れていった。倉庫の前を浪人たちが忙しなく走り抜けていく。何か異常でも起きたのではないかと心配になった海は彼らの後を追おうと一歩踏み出す。
「海、お前は行かなくていい。ここにいろ」
『でも、また子たちが……!』
「あいつらは大丈夫だ」
慌てている船員たちを見る限りでは大丈夫そうには見えない。それて晋助は海を行かせないように腕を掴み続けた。
「お前は俺の隣にいろ。この船の中で迷子になられたんじゃ困る」
『なっ……いや、船の中は覚えた……はず!』
「そう言って迷うのがてめェだろうが。昨日だって便所に行くって出てから二時間も帰ってこなかったやつがよく言うなァ?」
『そ、それは!その……あの……』
船の中が複雑過ぎるのが悪い。と反論したかったが、きっとそれを理由にして行かせなくなるだろう。
少し様子を見に行くだけなのにそんな過保護にならなくたっていいじゃないかと心の中でぶつくさ文句を零した。
「じっとしていろ。お前の出る幕はない」
『でも、こんなに大騒ぎになってるんだから何か起きたってことだろ。この船がこんなに傾くなんて初めてのことだし……もしかしたら……』
銀時と桂に自分たちの居場所がバレたのかもしれない。仕留め損なった海を殺しにここへ来ようとしているのだとしたら。
そうなったらまた子や武市たちが危ない。
『晋助、俺たちのせいでまた子たちが危ない目に合うのは見てられない。晋助だって仲間が傷つくのは嫌だろ』
「お前に心配されるほど弱くはねぇ」
『そうかもしれないけど……!』
何を言っても晋助に聞き入れてもらえず、海はぐっと右手を握りしめる。
『いっ……』
強く握った途端、右手にズキッとした痛みが走った。
いつの間にか怪我をしたのか手のひらには真っ白な包帯が巻かれている。晋助に聞いてみても怪我の原因は分からなかった。海が一人でいた時にやったものなのか、それとも銀時たちに襲われた時に怪我したものなのか。
じっと包帯を見ていると、突然視界がぐにゃりと歪んだ。
「海」
『大丈夫……だから……お前らは朝飯食えよ……』
ふらつく身体を何とか足で支える。晋助が横で何か言っている気がしたが、海には何も聞こえなかった。
歪む視界の中で見えたのは粉々になったコップ。そして自分を心配そうに見つめてきている黒い服の男たち。
『湯のみを落としたくらいで……』
──大丈夫じゃないですよ!怪我してるじゃないですか!
そう言って男は海の右手を指差す。その指の先を目で追っていくと、確かに怪我をして血を流していた。
『……俺は』
「海、部屋に戻るぞ」
グイッと晋助に腕を引っ張られて引きずられるようにして廊下へと歩き出す。その姿が誰かと被って見え、益々頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。
『晋助、俺……』
「あれだけ使ってもまだ足りねぇのか」
『晋助……?』
こちらを振り返った晋助は何故か恨めしそうに海を睨んでいる。その目の意味がわからず、ただ戸惑うばかり。
何かが違う。でも、その何かがわからない。
『(何がどうなってるんだ……)』
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