第33幕
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『凄いもんだな……こんな数の刀を作り上げるなんて……』
晋助と共に船の倉庫へと訪れていた海は水槽の中にある刀を眺めた。オリジナルの紅桜から量産した刀が倉庫の中にずらりと並べられている。これだけの量を作るのにどれだけの時間と労力が掛かったのだろうか。
初見で驚いていた海に晋助はなんでも無さそうな顔をしていた。これだけのものを一気に作り上げてしまうのだ。鬼兵隊のもつ財力や技術力は底知れない。
──ウチにもこれ程の力があれば困らないのに。
『……うん?』
無意識に出てきた言葉に首を捻る。"ウチ"とは一体何処なのか。自分が今所属してるのは鬼兵隊であって他には無い。それなのに海は鬼兵隊じゃないところの心配をした。
『ウチって……どこのことだ?』
水槽の中の刀を見つめながら考えてみたが、全く答えは出てこない。思い出さなければならないような気がしたが、海は頭を振って忘れることにした。
「酔狂な話じゃねぇか。大砲ぶっ放してドンパチやる時代にこんな刀作るとは」
刀を見つめたまま晋助は隣に立つ男へと話しかける。この紅桜を手がけた張本人である刀鍛冶の鉄矢だ。
ここにある大量の紅桜は彼一人で作られたもの。そして、オリジナルの紅桜に蓄積された戦闘技術を他の刀に学習させるためにこの装置を作ったのが晋助。
『……紅桜、ね』
水槽のなかで怪しく光る刀。ガラスへと手を伸ばして撫でるように触るとどこからともなく泡がボコリと音をたて、驚いた海が足を踏み外して後ろへとよろけた。
「海、あまり遊ぶな」
『うおっ……え、あ、ごめん』
倒れかけた身体は晋助に支えられた。狼狽える海の腰に回る晋助の腕。落ち着けと言わんばかりにとんとんと撫でられて、海はホッと胸を撫で下ろした。
「むっ。そいつで幕府を転覆するなどと大ぶらふく貴殿も十分、酔狂と思うがな!」
「ほらを実現してみせるほらふきが英傑と呼ばれるのさ。俺はできねェほらはふかねェ」
ただ撫でていただけの手に力が入り、晋助の方へとぐっと身体を引き寄せられる。それを見た鉄矢が「なんと……破廉恥な!」と言っているが、晋助はお構い無しに海を抱きしめた。
じっと見てくる目に耐えきれず海は晋助の首元へと顔を埋めたが。
「侍の剣もまだまだ滅んじゃいねぇってことを見せてやろうじゃねェか」
「貴殿らが何を企み、何を成そうとしているかなど興味はない!刀匠はただ、斬れる刀を作るのみ!私に言えることはただ一つ!この剣に斬れぬものはない!」
鉄矢は紅桜の水槽を見つめて叫ぶ。
刀鍛冶としてのプライドなのだろう。作る側ではなく、斬る側の海達にはわからない思いがそこにはあった。
『……斬れないものはない、か』
「気になるのか?」
『いや、紅桜でも斬れないものって……』
「……海」
『やっぱなんでもない。悪い、忘れてくれ』
一瞬、銀髪の男が海の脳裏を過ぎる。彼は海と共にあの人の元で育った幼なじみ。
ずっと一緒にいた存在。でも、今では海達と敵対する関係にいるのだと晋助に教えられた。あの男が敵対関係にあるという話はにわかに信じがたいが、晋助がそう言ったのならそうなのだろう。
先日、海を襲ったあの辻斬りも銀時の元にいるやつだと言われ、海は銀時に期待を持つのをやめた。
もう自分が知っているヤツではないんだと。
『もう、いいんだ』
会うことがあったらその時は敵同士。銀時に己の剣を向けなくてはならない。出なければ自分が殺される。
そう思っていたのに。
どうしても銀時に心変わりをして欲しいと思ってしまう。彼とは戦いたくない、出来れば穏便に話を済ませたい。また以前の様に笑って話がしたい。そう願ってしまう。
『(きっと、晋助は許さないよな)』
晋助の背中へ回した腕に力を込めた。この思いを隠すように、打ち消すように。
『銀時……』
頼むから斬らせないで欲しい。
今では違うのかもしれないが、海の中ではまだ友人である銀時。同士討ちなどしたくはない。
だから、
『来ないで、銀時』
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