第33幕
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
酷く懐かしい夢を見た。
子供の頃に剣を振るうことしか考えてなかった自分にあの人は別の道を教えてくれた。
あの人を追うために走って、転んで。痛みに悶えているといつも手を差し出してくれた彼。「仕方ないなぁ」と苦笑を浮かべながらも甲斐甲斐しく世話してくれた黒髪。
銀時と同じであの人の元で一緒に暮らした初恋の相手。
いつも側にいてくれていた彼は辛い時も悲しい時も楽しい時も一緒だった。海が隣に居るのが普通に感じていて、離れていると姿を探してしまうほど依存していた。
先生から海に引っ付きすぎだと言われたこともある。それでも銀時は海の隣に立ち続けた。離れてしまったら何処にふらりと行ってしまいそうだったから。
今よりずっと弱かった海は傷つきやすかった。それなのに人のことを庇ったりするのだ。海に助けられた回数なんてもう数え切れない。
だから、今度は自分が海のことを守ろうと決めた。ずっとそばに居て、海の敵になるやつは全員ぶちのめす。それが子供であれ、大人であれ関係ない。海の泣き顔を見るくらいなら。
そう決めたはずなのに。
「銀時」
ふと名前を呼ばれ、声のした方へと振り返る。そこには派手な着流しに身を包んだ高杉が立っていた。
「てめェには聞こえねぇのか?この声が。俺には聞こえるぜ。俺の中には未だに黒い獣がのた打ち回っているんでなァ」
視界がブレて高杉の姿が似蔵の姿とかぶる。相手は刀を手にして迫ってきているのだが、金縛りにあったかのように身体の自由が封じられていた。刃は腹部へと深く突き刺さり、じわりと額に嫌な汗が浮かぶ。
「俺ァ、ただ壊すだけだ。獣のうめきがやむまで……アイツが俺の手の内にはいるまで、な」
そう言って高杉は口元を歪ませる。力を失った己の身体はゆっくりと倒れていく。最後に目に映ったのは泣きそうな顔でこちらに手を伸ばしている海の姿だった。
⋆ ・⋆ ・⋆ ・⋆
「っは……はぁはぁ……」
悪夢から目が覚めて銀時は荒く息を吐く。目に入ったのは見慣れた天井。先程見ていたものが全部夢だと気づいた瞬間、銀時は重たい息を零した。
乱れた息を整えつつ視線を彷徨わせると、傍にはお妙の姿。ゆらゆらと揺れている彼女は夢の中へと踏み込んでいるのだろう。
ふと先程の夢を思い返す。懐かしい夢のくせにどれだけ人の心を掻き乱すのか。思い出したくない記憶と思い出さなくてはいけないものがごちゃ混ぜになっていて吐き気すら感じた。
最後に見た海の泣き顔にズキリと胸が痛んだ。あんな顔をさせるつもりはなかったのに。どうして自分で決めたことも守れないのか。あの子を泣かせるために一緒にいたわけじゃないのに。
何が守るだ。これでは守るどころか逆に苦労を背負わせてるだけじゃないか。
ずしりと重くなる後悔の念が銀時に重しのようにのしかかっていた。
.