第55幕
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『今まで学んだことを思い出しながら剣を振れ』
「う、うん」
最初は軽く。いつもの稽古の時のように朔夜の身体を解すように剣を交える。
『最初の頃に比べたら良くなってる。自信を持て』
「ほんとに!?」
『ああ。飲み込みが早くてこちらも助かる。でも、刀の使い方を覚えたからとはいえ間違えることのないようにな』
「間違えるって?」
『何のために力を行使するか。強くなったから故にその力を見せびらかすように使うんじゃなくて、自分の身を守るために。誰かを護るために使え』
自分が間違えてしまったから。朔夜には間違った使い方をされたくない。後悔してしまう前にきちんと教えなくてはいけないことだ。
「誰かを護るために……」
『今は自分の身を守ることを第一に考えた方がいい。その後に余裕が出来たら、周りを見れるようになったらにしとけ』
「うん……僕頑張るよ」
深く頷いた朔夜に合わせて海も頷く。どうやら朔夜の方はもう準備万端らしい。
『それと……剣を向ける相手は敵だけじゃない。ということも覚えるように』
「えっ──」
構えられていた刀へと強い衝撃を加える。咄嗟に朔夜は海と距離を空けるように後ろへと飛んだが、追い討ちを掛けるように間合いへと入り込む。
「ちょ、兄さん!」
『敵は攘夷浪士だけじゃない。味方が裏切る可能性だってある。相手とどれだけ仲が良かったとしても剣を向けるときが来るかもしれない』
「そ、そんな……」
『そこで気を抜けば死ぬことになる。誰が相手になろうと剣を下ろすな』
間髪入れずに攻め続ける海に朔夜は躊躇いがちに避けた。どれだけ刀を振り下ろしても朔夜は一向に攻めてくる気配は無い。
『お前……死にたいのか?』
「で、でも!」
『躊躇ってる間に首をはねられるぞ』
「でも、僕そんなこと出来ないよ……!」
『出来ないんじゃない。やるしかねぇんだよ』
こちら側にやる気が無くても相手はそんなことお構いもせずに刃を向けてくる。
晋助がそうだったように。
『そんなこと言ってる暇はない。斬りたくなくても斬らなきゃいけないときが来る。その時にこうやって躊躇ってたら自分が死ぬだけだ』
でも、でも、と繰り返す朔夜にため息が漏れる。朔夜に教えるにはまだ早かったかもしれない。
『斬れないならそこまでだ』
「おい、海!」
狼狽える朔夜の頭上へと刀を振り下ろす。横から銀時の制止の声が聞こえたが無視して。
朔夜の頭へと落とされるはずだった海の刀は宙を舞った。窮鼠猫を噛むとはこういう事を示すのかもしれない。
「ぼ、僕……」
『やれば出来るじゃねぇか』
「ご、ごめんなさい」
朔夜の刀は海の刀を弾き、その切っ先は海の右腕へと刺さった。
『ちょっと煽りすぎたか』
「煽りすぎたかじゃねぇよバカヤロー!お前なにやってんの!?」
刺さった刀を抜いて銀時は慌てた様子で海の右腕を掴む。着物の袖を捲り上げられて見えた傷口はぱっくりと開いていた。
『おー、初めてにしては上出来?』
「褒めるところじゃねぇだろうが!お前ッ……」
『これくらいの怪我で慌てすぎだろ……事前に言ってあっただろ?怪我する予定だって』
喧しく怒りながらもテキパキと傷口の手当をする銀時に苦笑いをしつつ、朔夜の方を見る。青ざめた顔でこちらを見ている目と目が合う。
「に、にいさ……」
『朔夜、人を斬るってことはこういうことだから』
「ご、ごめんなさい……僕……」
『謝る必要は無い。真選組に正式に入ることになったら犯罪者相手に剣を向ける。相手が素直に捕まってくれれば無傷で取り押さえられるけど、そう簡単にいかないのが殆どだ。これから血を見ることや死体を直視する事が増える。これはどうやっても逃げることは出来ない』
生け捕りに出来れば良い方だ。むしろそうでなくてはならない。でも、場合によっては命を摘むことだってある。そうなった時に躊躇うことのないように。
『殺られる前に殺れ。怖いと思うかもしれないが、こっちの道に入るならそれしかない』
冷たく感じてしまうだろうけど、結局のところそうなってしまう。
俯いている朔夜の頭にポンと頭を乗せて髪をかき混ぜるように撫でる。
『刀を持ってまだ一週間経ってないのにごめんな』
「ううん……この前、土方さんにも同じこと言われた。真選組に入るってことは誰かを斬ることになるんだって。お前にそれ出来んのかって」
海が教えるよりも先に土方が聞いていたのは初耳だ。朔夜の状態を見ていた土方は真選組に入れるのは難しいかもしれないと言っていたのに。
「人を斬るのは怖い。自分の手で誰かを殺すなんて今まで考えたこと無かったから。でも、これからはちゃんと考えないといけないんだよね」
悩んでばかりでは居られないのだと朔夜は顔を上げる。その目は何かを決意したような澄んだ瞳。
「僕、決めたよ。皆を……総悟や近藤さん……兄さん達を護れるように強くなる」
「おうおう。立派な意思表示で」
『茶化すな。朔夜がそう決めたのならそれでいいんだろ』
あんまりにも真っ直ぐにこちらを見てくるものだから思わず目を逸らしてしまった。そんな海に銀時はニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべる。
「良かったじゃん。上手くいって」
『うるせ』
「これなら大丈夫なんじゃない?」
『どうだか。本番は明後日だ。それまで揺らぐことのないようにな』
「うん!」
へらへらと笑い合う銀時と朔夜。そんな二人を呆れた顔で見つつ、海はホッと胸を撫で下ろした。
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