第55幕
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模擬戦を終えたその日の晩、海と朔夜は局長室へと呼び出されていた。
「いやー、見事だった。たった一週間であれだけ強くなるとは……なぁ、海。他の隊士達にも稽古をつけてもらえないか?」
『その件はもう断った』
「えっ、俺今初めて言ったんだけど……」
『土方にさっき言われて断った』
「そうか……残念だな」
落ち込んだ様子で項垂れる近藤に土方が咳払いを漏らす。近藤が呼び出した理由は隊士たちに稽古をつけて欲しいという話では無い。
『近藤さん、朔夜は土方との模擬戦に勝った。これから正式な隊士になるけど、朔夜の所属する隊は決まってるのか?』
「一番隊に入れようと思ってる。あれだけ動けるなら総悟に追いつきそうだしな」
『歳も近いから話しやすいってのもあるか』
何かあった時にすぐ報告出来る方がいい。朔夜と総悟はよく話をしているからもう打ち解けているだろう。総悟が何かと朔夜を気にしてくれているからきっとこれからも面倒を見てくれる。
「それと海、お前もそろそろ平隊士じゃなくて役職につかないか?」
『俺は平のまんまでいい。それは以前にも話しただろ』
この話は真選組が出来てから何度も言われていた。その度に断り続けていたから近藤も諦めたと思っていたのに。
「すまんな。だが、とっつぁんがそろそろ決めてやれって言ってるんだよ。本人は必要ないって言ってるって伝えたけど、とっつぁんが気に食わねぇみたいで」
『別に役職ついたところで何も変わらないだろ。無駄に責任だけ増えるのは嫌なんだけど』
上からの厄介事を任せられるのは面倒だ。日々使いっ走りにされている近藤と土方を見ているとそう思ってしまう。
松平や将軍のお守りだけでなく、近藤さえも面倒事を持ってくるのだから。平隊士ならば言われたことをこなしてればいい。そっちの方が気が楽だ。
「そこをなんとか!海が手伝ってくれると色々と助かるんだよ」
頼む!と頭を下げられてしまっては断りづらい。土方の方へ目を向けても助けてくれなさそうだった。
『……わかった。そこまで言うならやる』
「本当か!?そしたら……そうだな。俺とトシの補佐にまわることになるけどどっちがいい?」
『ストーカーとマヨラーか。また選びづらいのを持ってくるな』
「おめぇはもっとマシな言い方は出来ねぇのかよ!!!!」
「ストーカー……」
落ち込む近藤を他所にどちらを選ぼうかと考えを巡らせる。近藤の方に付けば城について行くことが増えるだろう。そうなったら色々と面倒だ。変に目立つ行動をしてしまえば、自分の素性がバレる恐れがある。
ならば屯所に引き込もれる方の仕事を請け負った方が良い。そして屯所内で一番仕事を担ってるやつと言えば……。
『今までデスクワークだったから屯所の面倒ごとは片付ける。書類とかの処理が多い方にしてくれ』
「なら、トシの方の補佐だな!」
悪意無く近藤はにっかりと笑う。その表情を見た土方は持っていた煙草を落としそうになりながら口をあんぐりと開けた。
「え、俺の仕事って近藤さんより多いの?局長より副長の方が仕事多いってどういうこと?近藤さんいつも何してんの!?」
『じゃあ、これから頼むわ。副長』
「おいいいいい!!!俺の話は無視か!!!!!!」
「よーし!今日は宴会だ!朔夜が正式な隊士になった祝い酒だ!!!」
『おー』
「おー!」
これで話はお終いと言わんばかりに近藤は立ち上がる。朔夜もノリノリで近藤の後を追って局長室を出ていく。
「どういうこと?あの人いつも外でなにしてんの?俺が仕事してる時なにやってんの?」
『土方。上司の手綱はきちんと管理した方がいいぞ。あの人は見回りに行くって言って屯所出てるけど、外で仕事してるところなんてほぼ見た事ないからな。やってるのは新八んとこのお姉さんのストーカーだ』
事実から目を逸らそうとしている土方に現実を叩きつける。頭を抱えて項垂れている姿はとても可哀想だが、今まで放って置いた土方が悪いのだ。前回、近藤が勝手に決闘をしてしまった時だって大変な目にあったというのに。
『まぁ、副長補佐になったからには手伝ってやるけど』
これからは土方の分の仕事を海が行うことになる。その中に近藤の管理も含まれるのかと思ったらため息が零れた。
『昇格して早々で転職してぇな』
情緒纒綿たる蒼(完)
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