第55幕
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『朔夜、ちょっと出かけるぞ』
次の日の早朝。寝ていた朔夜を起こして準備をさせる。眠そうに目を擦る朔夜に着物を着せて刀を腰に添えた。
「どこ行くの……?」
『お前もよく知ってる場所』
「かわや?」
『なんで厠に行くんだよ。それなら刀要らないだろ』
ぼーっとしている朔夜の手を引きながら屯所を出る。日が上り始める前なのでまだ外は薄暗い。空が白けてくるまでまだ時間がある。その間に朔夜に見せておきたいものがあった。
昼間にできるのであればそうしたいのだが、人の目がある場所では中々できない事だ。下手したら通報されかねない。だから人が行き交う前に終わらせないといけない。
「にいさんどこいくの?」
『万事屋』
「よろずや?」
『着くまでに目を覚ましておけ』
これからやることはしっかりと学んでもらわなければならない。いずれぶつかる事柄だから。
『(覚えさせるにはまだ早いとは思うが……集団に属するということはそういうこともあるって事だ)』
いざという時に朔夜が迷わないように。その為には例え本人が嫌がっても教えるしかない。
朔夜以上に自分が苦手としている事だとしても。
音を立てないように万事屋の階段を上がり戸を引く。玄関先に朔夜を残して海は銀時の寝室へと入り込んだ。
布団を蹴飛ばして気持ちよさそうに眠っている銀時の肩へと手を掛けて揺さぶる。昨日のうちに話はしておいたというのに。
『銀時』
「んぐ……もう飲め……ねぇって」
『お前は夢の中でも酒飲んでんのか』
「いや……これは生クリーム……って、え?海?」
『昨日言っただろ。今日の朝少し付き合ってくれって』
「聞いた……けど、朝っていうか早朝?つか陽上ってないじゃん……」
もぞりと起き上がって窓の外を見る。外がまだ暗いと文句を言った銀時に小さく息を吐いた。
『老人は朝早く散歩に出るんだよ。その時間じゃ遅すぎる。公園でやってる所を見られたら通報されかねないだろ』
「ヤッてるところ見られたらって……え、ナニする気なの?外でナニするの?」
何故か目を輝かせながら銀時はずいっと海の方へと顔を近づける。
『手合わせをしてもらいたい。それと、朔夜と本気でやり合うから怪我の治療も』
「は?何怪我って」
『刀を持ったって人が斬れなければ意味が無い。朔夜はまだ刀を振るうことに躊躇ってる。ここいらで一回人を斬る練習しておかねぇと』
「待てよ。なんでそうなるわけ?別に絶対斬らなきゃいけないってわけでもないだろ」
『そうもいかない。真選組に警察にいる以上は人を斬ることだってある。攘夷浪士や罪を犯した犯人、または……』
仲間の時だってある。相手に牙を向けられた時に自分の身を守れるほどの力とやり返すだけの技量を兼ね備えなくてはならない。相手が人だから斬れない、仲間だったから斬れないでは困るのだ。
『稽古中に教えてはいるけど、いざとなった時の為にちゃんと教えておきたい』
切実に頼み込む海に銀時は渋い顔をした。断られるかもしれないと諦めかけた海に銀時はため息をつきながら立ち上がった。
「過保護」
『別にそういうつもりじゃない』
「過保護だろ。朔夜が傷つかないように事前に学ばせようって?そんなの後から身についてくるもんだろ。今教えこませたって分からねぇよ」
寝巻きからいつものジャージへと腕を通しながら銀時はブツブツと文句を零す。
「怪我なんてさせないからな」
『それじゃ斬った事にならないだろ』
「ふざけんな。いくら弟でもお前を傷つけさせるなんて許さねぇから」
着替え終えた銀時は不機嫌そうに海を見下ろす。
「朔夜の相手は俺がするから」
『ダメだ。アイツの面倒は俺が見ると決めた。銀時であっても邪魔するのは許さない』
「誰が教えようと同じだろ。要は自分の身を守れるくらいの剣術教えてやればいいってことだろ?それなら俺が教えたって……」
『銀、頼んだこと以上のことはしなくていい』
冷たくそう言い放つと、銀時は拗ねたようにそっぽ向く。銀時の言いたいことは分かっているけど、自分でやると言ったのだから最後まで責任もってやらなければならない。
「あっそ」
『……ありがと』
「えっ?」
『お前の言いたいことは分かってる。でも、ここで手を抜くわけにはいかないんだよ』
「……分かってんならいいけど」
なんとも言えない表情で銀時は頭をガシガシと掻く。
「その……頼み事くらいいくらでも聞いてやるから。その代わり無理はすんなよ」
『無理はしてない。無茶はしてると思う』
「うん。してる、かなり」
素直に言えば銀時は真顔で頷く。少しの間が空いたあと二人でくすりと笑った。
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