第55幕
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「おお!やってるな」
ぼーっと稽古を見ていると土方の横に近藤が顔を出した。お疲れさんと声をかけてから土方は視線を下へとずらす。いつもの事だが本当に目に悪い。何故この男は毎度毎度褌姿で道場に来るのか。ここが男所帯で良かったと心底思う。女が居ようものなら近藤は即逮捕されている身だ。
「トシも見てたのか。どうだ?朔夜の方は」
「とうもこうも……あれじゃ間に合わねぇ」
海に吹き飛ばされては立ち上がってまた飽きもせずに突っ込んでいく。ただそれの繰り返し。なんの捻りもない朔夜の行動にこちらが飽きてしまいそうになる。それなのに海は朔夜に何も言わない。馬鹿の一つ覚えのように突っ込んでくる朔夜に注意の言葉さえかけないのだ。
あれでは成長することはない。
「海の教え方が雑ってのもあるが、朔夜は考え無しに突っ込んでやがる。稽古といえども相手を負かさなきゃ終わらねぇ」
朔夜にその気はあるのか。海を倒して土方たちに認められようとしているのかが怪しい。
ビデオの巻き戻しのように同じことを繰り返している朔夜に土方は飽き始めていた。上着のポケットから煙草を取り出して火をつけ煙を肺へと送る。
口から煙を吐き出した刹那、ダンッ!という音が耳元で聞こえて土方は息を止めた。ちらりと真横を見るとそこにはキラリと光る刀。もう少し左側にズレていたら土方の顔面に刀が突き刺さっていただろう。ヒヤリとしたものが背中を伝う中、前方から向けられている視線に鳥肌が立った。
『……土方、ガキの前でタバコを吹かすな』
「わ、悪い……」
こちらを見る目に怒気が含まれている。朔夜に集中しているからこちらの事は気にしていないと思っていたのに。お前は一体何処に目が付いているんだとツッコミながら携帯灰皿に煙草を押し込んだ。
投げた刀を取りに来た海と間近で目が合う。何時間も稽古を続けていたせいで前髪は汗で濡れているし、ほんのりと頬が赤く染っている。疲れの見える顔はなんとも扇情的で……。
『なんだよ』
「な、んでもねぇよ」
じっと顔を見つめていたのを気づかれて海に不審がられ睨まれる。相手は睨んでいるはずなのに何故かエロく見えてしまった。まるで情事の最中に見せる物欲しそうな顔に。
「(嘘だろ……)」
ムクリと一点が熱くなる。これ以上見てはいけないと咄嗟に目を逸らしたが遅かった。脳裏に焼き付いてしまった海の表情がずっと離れない。
「トシ、大丈夫か?」
『体調悪いんじゃないか?』
「急に顔真っ赤になったもんな……熱があるなら休めよ?」
体調が悪いなら部屋に戻れと海に背中を押され、とぼとぼと部屋へと帰る。その間ずっと下半身は熱を持ったままだった。部屋に戻ってからというものの、書類に手をつけても集中することも出来ずその日は過ぎた。
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