第55幕
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『まだだ。立て』
「は、はい!!」
道場の壁へと吹き飛ばされた朔夜は痛みで呻きながらその場に蹲った。
稽古にしては手荒く、修行にしては師匠の教えが中途半端。誰かに物を教えるということは難しいと言われているが、これほどまで下手だとは思わなかった。
海は人に物を教えるのが下手くそ過ぎる。それが土方の感想だった。
海が朔夜に刀を教えると言ってから三日経った。相変わらず朔夜は生傷が絶えない。一日目に比べればまだ見れるほどにはなってはいる。それでも隊士に比べたら見劣りしていた。そもそも一週間でどうにかなるようなものではない。そんな簡単に身につくものなら何年も稽古する意味は無いのだ。
朔夜が一週間で平隊士並の技量を手にしてしまったら他の隊士たちのモチベーションにも関わる。土方は新人隊士を迎える準備をしつつも、朔夜の技術が平隊士を超えることの無いようにと心の隅っこで思っていた。
「に、兄さん!足はずるいよ!」
『あ?言っとくけどな、実践ではずるいもクソもねぇんだよ。剣だけだと思うな。全てに気を張らせろ』
「そ、そんなの!……っああもう!!」
そんな理不尽受け入れたくないと子供は叫ぶ。海はそんなのお構い無しに姑息な手を繰り返す。その度に朔夜は床に手をつき尻をついて海を睨む。その目が段々と鋭利になってきているのは自分の身間違いだろうか。
最初は子犬が不満を訴えるように唸っていたのが、今では獰猛な獣のように見えるときがある。その瞬間、海は楽しげに笑うのだ。
「(変なやつだとは思っていたが、ここまで性格がねじ曲がってると思うとな)」
海の性格はまともではない。それは真選組になってから分かったことだ。武州にいた時はそんな片鱗見せたこともなかったのに。江戸に来てから、警察の仕事を任されるようになってからは海の隠れていた性格が顕になった気がする。
戦いながら笑うやつなんてまともじゃない。相手から向けられる敵意や殺意に笑みを浮かべるなんて不気味すぎる。
そんなこと本人に言おうものなら後ろから刺されかねないが。
今はあの不気味な笑みが土方に向けられていないからいいだろう。いつか、いつかあの笑みが自分に向けられる事があったら。その時はどうすればいいのか。
「あいつに剣を向けるなんてことはねぇか」
手合せとして竹刀を向けることはあっても刀の切っ先を海に向けることは絶対にない。
惚れている相手に剣を向けるなんて考えたくもなかった。
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