第54幕
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「兄さん……どうしてここが」
『お前が行く場所なんてここくらいしかないだろ。屋敷の方は立ち入り禁止になってるし、話し相手になるような人間も限られてる』
「……僕、兄さんのことなんもわかってなくて……兄さんが僕のために刀を教えてくれてたなんて知らなかったんだ。それなのに僕……逃げてごめんなさい!」
『お前が謝る必要は無い。細かい所を端折った俺が悪いんだから。ごめんな』
「に、にいさぁぁぁぁん!!」
ぼろぼろと泣き始めた朔夜は海の胸へと飛び込む。ごめんなさいと何度も繰り返す朔夜に海は苦笑いを浮かべつつも安堵の表情。手酷くしたせいで弟に嫌われてしまったのかもしれないと思っていたのだろう。
「(面影が……似てきたな)」
朔夜と海を見ていると昔の記憶が思い出される。先生と呼んだあの人がまだ生きていた頃。あの人はよく海の頭を撫でていた。親の愛情を満足に受けられなかった海に注ぐようにあの人は海をめいっぱい愛した。それはもう銀時が嫉妬するくらいに。
『銀時、世話になったな』
「別になんもしてねぇよ」
『そうか』
素っ気なく返事をしたのに海は何故か嬉しそうに微笑む。その表情がとても綺麗で思わず目を逸らしてしまった。
「早く帰って特訓でもなんでもやってやれよ。時間、ねぇんだろ?」
『あぁ。そうさせてもらう』
泣きついている朔夜を玄関へと向かわせ、海も万事屋を出ようと靴に足を滑らせる。その姿をじっと見つめている銀時の方へと海が振り向いた。
『銀』
「うん?」
『いつも助けられてばかりだな。その……感謝してる。ありがとう』
「礼を言われるようなことはしてねぇよ。俺がしたいからしてるだけだから。気にせず頼れよ」
一瞬きょとんとしてから海はふにゃりと顔を緩ませる。
『そんなこと言われたら甘えたくなるから』
そう言って朔夜を連れて海は屯所へと帰って行った。外階段を降りていく足音が聞こえなくなってから銀時は壁に身体を引きずらせながら蹲る。
「なに甘えたくなるって。甘えてもらっていいですけど?なんなら飛び込んできてもらってもいいんですけど!?全力で受け止めますよこっちは!!」
甘えるなんて可愛いもんじゃなく、寄りかかってきて欲しい。海はきっと望まないかもしれないけど、銀時は海のことを支えたいと思っている。だから小さなことでもなんでも頼って欲しい。そういう意味で頼れと言ったのに。
「甘えたくなるからってなに!?なんであんな可愛い顔して言うわけ!?」
恥ずかしそうに笑った顔が頭の中で繰り返される。ここに子供らが居なかったら寝室に連れ込んでいただろう。屯所になんて帰さず一晩中押し倒して。
「好きすぎんのも辛いわ……」
恋人が可愛すぎて心臓が持たない。このままではいつか殺されてしまう気がする。これがよくテレビでいうキュン死にというものなのか。初めて聞いた時は何馬鹿なこと言ってんだコイツらはと鼻で笑ったが、今ならバカにしてすみませんと謝りたい。
これは確かにキュン死にする。
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