第54幕
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「僕のために……?」
どさりと朔夜をソファへと落とすと呆然とした顔で一点を見つめる朔夜。
「あいつほど誰かの為に動くやつなんか居ねぇよ。それでなくても刀を教えるなんて……そんなこと海は一度だって誰かにしたことねぇよ」
子供の頃から一緒にいた銀時でさえ海から教えられたことなんて一度もない。むしろ銀時が海に教えていたくらいだ。基礎もなにも出来ていなかったはずなのに何故か今では海の方が強くなっている。その理由は嫌でも分かっているけれど。
そんな海が朔夜に稽古をつけている。己の剣を教えようとしているのだ。銀時からしたら羨ましいことこの上ない。海の時間を独占出来るし、磨き上げられた剣技を間近で見られる。出来ることなら代わって欲しいくらいだ。
「でも、一週間で平隊士並になんて出来ないよ……僕、一度だって刀を持ったことなんかなかったんだ。ずっと屋敷の中で勉強してるだけで……刃物なんて持ったことがないし」
「だからだろ」
「え?」
「家に居たって一人だったんだろ?真選組にいても孤立するだろうよ。お前の身分じゃ煙たがれるだろうし、そんなんで隊士になったところで剣をまともに使えない犯罪者の子供止まりだ」
反論しようと朔夜は銀時を見上げるも、口をパクパクと動かすだけで言葉にならない。
「剣を覚えることが出来ないって言うなら屯所から追い出すしかない。お前外で一人で生きていけんの?今まで誰かのおかげで生きてこれたようなやつが。一人で衣食住賄い切れるのか?」
無理に決まっている。そこらの子供でも難しいのにおぼっちゃまだった朔夜は尚更出来るはずもない。食べることも服を着ることも誰かの手を借りて居たような子供がたった一人で生きていくにはこの町は厳しすぎる。
「路頭に迷わせたくないから海はお前に厳しく教えてるんじゃねぇの?」
ぐいっと朔夜の腕を引っ張れば袖が捲れて見える腕。そこには真新しい包帯が何重にも巻かれていた。たった一日でこれだけの怪我をしているのだ。どれだけ海が真剣に教えているのかが伺える。日数制限を掛けているというのも考えると、朔夜に残されている時間は少ない。
「で?お前はどうすんの?」
「僕……兄さんに謝らないと」
漸く事の重大さに気づいた朔夜は濡れた目を袖で拭って立ち上がる。これで自分の役目を終わりだと言わんばかりに銀時は気だるげに玄関の方を向いた。
「だそうだけど?」
『あまりそいつを虐めないでくれないか?』
玄関の方で静かに聞いていた海がひょこりと顔を出す。ジト目で銀時を見ながら腕を組んでいた。
「誰がいじめてるだって?お前の方が大分いじめてると思うけどな。どうせこいつに理由も話さずに特訓し始めたんだろ。そりゃ逃げるわ」
『全部を語る必要は無い。朔夜がまともに刀を使えるようになればそれで構わない』
「はぁ……それで逃げられてたんじゃ話にならねぇだろが」
『……逃げるとまでは思ってなかった』
気まずそうにそっぽ向く海に苦笑いを零す。
「お前の本気は俺でも逃げ出したくなるんだから。それを朔夜が受け止め切れると思ってたのかよ」
『本気は出してない。まぁちょっと……やりすぎたとは思ってる』
一応反省はしているようで申し訳なさそうに俯く。そんな海がとても可愛らしくて思わず銀時は子供らの目があるのにも関わらず海を抱きしめた。
瞬時に海に蹴り飛ばされたけど。
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