第54幕
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「で?今度は何したんだ?」
「何もしてないです。ただ、兄さんが……突然厳しくなったから」
「逃げてきた、ってか?」
「う……」
言葉に詰まって項垂れる少年。ソファに座る彼は膝の上の手をぎゅっと握って俯いていた。
朔夜が家に来てからかれこれ三時間程経っている。
万事屋の前でうろうろしていた朔夜に新八が声をかけたのが発端。何か困っているようだと新八は朔夜を中に入れたのだが、当の本人はその悩みを言うことも無くただ唸るだけ。新八と神楽がどうしたのかと聞いても俯くばかりで何も答えなかった。そんな子供らを面倒くさそうに眺めていた銀時は溜息をついた。
すぐに帰ると思っていたのだ。兄大好きな朔夜なら悩み事をここで吐き出すより兄に聞くはずだから。それなのに彼は屯所に帰らずに万事屋に長居している。こんなに長く屯所を離れていたら海は心配するだろう。西ノ宮の件が落ち着いてからまだ日が浅い。事件の首謀者である両親が捕まったとはいえ、その子供が町をフラフラしているとなると他の人たちは嫌な顔をするだろう。
現にお登勢から大丈夫なのかと声を掛けられた。子供一人フラフラしていて何かあったらどうするんだと。被害に遭った者たちが朔夜に対して恨みを抱いていないとは言いきれない。
「(海がどれだけ走り回ったか知らねぇんだろうな)」
今、朔夜が無事でいられるのは海のおかげだ。被害者ら一人一人の家を訪問して頭を下げに行ったから朔夜は平然と町を歩けている。もし海が動くのが少しでも遅れていたなら。朔夜は町を歩く度に暴言や暴行を受けていただろう。それほど西ノ宮がした事は罪深い。
自分はそこまでするだろうか。
親兄弟の居ない銀時には分かり兼ねるものだ。今まで憎んでいた男の子供。例え弟だとしてもあそこまでする理由は無い。自分の身分を明かして被害者達からの言葉を一身に引き受けるなんて。
「(また無理してなきゃいいけど)」
側で見ていなければ海はすぐに無理をする。自分が止めてやらなければ暴走してしまう彼のことだ。朔夜のこの状態もきっと彼が何かしているに違いない。ボロボロになっている朔夜の両手を見て銀時は再度ため息を漏らした。
「黙ってたんじゃわからねぇだろが」
「銀さん、強く言い過ぎですよ。朔夜くん、海さんと何があったのか話してくれないかな?」
黙りこくっている子供に語気を強めて問い詰める。そんな銀時に新八は即座に注意を投げかけ、萎縮した朔夜に優しく問いかけ直す。
「……怒らない?」
「え、怒るようなことしたの!?」
「違う!けど……」
「けど?」
「きっと怒ると思う。なんで逃げたんだって」
「それは聞いてみないとわからないよ。海さんが辛く当たりすぎてるのか、朔夜くんが逃げちゃいけない時に逃げちゃったのか。まだ僕らもきちんとお話してないから状況がわからないんだ。だから全部話して欲しいんだ」
「わかった……」
子供には子供を。自分が朔夜を問い詰めるよりも新八が最初から聞いていた方が早かったのではないかと思えるくらい話は進んだ。
「兄さんが昨日、僕に刀を教えてくれるって言ったんだ」
「海さんが刀を?」
「うん。でも、教えられるのは一週間だけだからって。その間に平隊士並に強くならなければ追い出すって言われた」
「え、えー……海さんそんなこと言ったの……」
「兄さんが教えてくれるって言ってくれた時は凄く嬉しかったんだ。だから、昨日ずっと道場にこもって兄さんと刀を振ってたんだけど……兄さんがいきなり僕のこと吹っ飛ばして。凄く痛くて、辛くて……兄さんの目もいつもと違くて怖かった」
「……朔夜くん」
ぽろぽろと話し出した朔夜は次第に嗚咽混じりになっていく。相当怖い思いをしたのか身体を震わせて泣きじゃくった。朔夜の背中を撫でながら新八は困ったように銀時に視線を送る。
「お前、本当に意味わかってそんなこと言ってんの?海が何を思ってお前に刀を教えてるのかをわかってるのか?」
「僕が……教えて欲しいってわがまま言ったから……仕方なくじゃないの?」
「……お前さ。あいつの何を見てたの?」
「何って……」
「人の為ならいくらでも手を貸して、身内の為なら身体まで差し出して。あんな馬鹿みたいな世話焼きが仕方なくお前に刀を教えてるだ?笑わせんじゃねぇよ」
「ちょっと!銀さん!!」
椅子から立ち上がって朔夜に近づき、俯いてぼろぼろ泣いてる朔夜の胸倉を掴み上げる。咄嗟に新八が銀時のことを止めようとしてきたが、神楽が新八の腕を掴んで止めた。
「さ……かたさん」
「あいつはお前のために刀を教えてやってんだろうが。お前がわがまま言ったからじゃなくて、お前が真選組に居られるようにと思って教えてんだろうが!」
意味もなく海は誰かに対して態度を変えることは無い。大切にしている弟相手なら尚更。これだけ大事にされているというのに朔夜は全く気づいていない。その事に銀時は嫉妬と苛立ちで朔夜に向けてきつい言葉を吐いた。
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