第54幕
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『ご迷惑おかけしました』
静かに頭を下げる海に近藤は苦笑いを零す。
「謝ることなんかねぇよ。だから顔を上げてくれ」
あれから近藤と土方と共に局長室へと来ていた。
屯所の庭で騒いでいたせいで他の隊士らが何事かと見に来てしまったのだ。ふらっと居なくなった海の事を心配していた隊士たちがわらわらと集まってきて一時騒然とした。時間が時間だから声を抑えるようにと近藤が注意したが、盛り上がってしまった熱気は中々冷めることはなく、土方がその場にいた全員に切腹命令を出したことで落ち着いた。
そのタイミングで銀時も家に帰ると言って屯所を去っていった。帰り際に「またね」と海にキスして言ったことで今度は土方が騒ぎ散らしていたが。
『総悟から聞きました。どうやら西ノ宮が捕まったみたいですね』
「あぁ、天人に女子供を売っていたことが分かってな。人身売買の件で奴はしょっぴいた。あれだけの被害数だ。簡単には出て来れないだろう」
西ノ宮が手を出した人達は主に貧困に喘いでいた人達だ。その日の食事を得るために身売りをしていた女性や、口減らしの為に子供を売ろうとしていた親。そんな人達に金をチラつかせて言うことを聞かせていた。
それは全て天人たちが酒を飲みながら滑らした話だ。きっと西ノ宮はそれ以上の事にも手を出していたに違いない。あの人間は人の弱みを握ることに長けていたから。
「もう西ノ宮に怯えることは無い。だから安心してくれ」
『はい』
投獄されたのなら彼らは海に手を出すことは出来ない。逆恨みで命を狙われる恐れは無くなった。だが、それと同時に新たな問題が生まれている。
「それと朔夜の事なんだが……西ノ宮夫妻を投獄したことで朔夜の帰る場所が無くなっちまったんだ。家に帰ろうにも今は封鎖されてて入れないし、誰か迎えに来るかと思ったんだが誰も来る気配なくてな」
朔夜の居場所がない。本来は親元に帰るはずなのにその親が犯罪者になってしまった。西ノ宮であれば使用人がいるはずなのに誰一人として朔夜を迎えに来ない。
西ノ宮家の存続を望むものが居るのなら朔夜の存在は無くてはならないはず。それなのに誰も朔夜を引取りに来ないということは西ノ宮家の必要性は失われたということだ。雇われていた使用人たちは皆解雇されて別の働き口を探したのかもしれない。
朔夜は親を失い家を失った。彼の面倒を見れる人間はもう一人しかいない。
「なあ、海。朔夜を隊士にしてみないか?」
『隊士にですか』
「隊士になれば朔夜は屯所に居られるだろ?外に放り出すくらいならそうした方がいいと思うんだが」
その提案はとても助かるもの。このまま放り出されたところで朔夜は一人では生きていけない。衣食住の面倒は海が見るとしても、世間は朔夜の事を許してはくれないだろう。西ノ宮が起こした事件は大々的にニュースになっていた。その為、西ノ宮の姓を持っている朔夜は冷たい目で見られることになる。
果たしてそんな中で彼は一人で生きていくことが出来るのか。
『ここで引き取ってもらえるのであればとても助かる。でも、あいつは今まで刀を使ったことのないただの子供だ。そんなやつが隊士として働ける技量も度胸もない』
「それはそうなんだけど……」
『だから一週間待って欲しい』
「へ?」
『一週間で朔夜を平隊士並に育てる。それが出来なければ真選組に入れるのは諦める』
きょとんとしている近藤に海はハッキリと告げた。
「いやいや!流石に無理があるんじゃないか!?一週間で平隊士並にってそれはいくらなんでも無茶だ!」
『なら朔夜は外に住むように言う』
「あのガキを隊士にしたくねぇってことか」
『そうじゃない。足を引っ張る人間を入れる訳にはいかないって言ってんだよ』
「そんなもん後からどうにでも出来るだろ」
『その間に出動要請があったらどうするんだ?朔夜には留守番でも命じるのか?』
他の隊士たちには危険な場所に向かわせといて、朔夜は屯所で留守番なんて許せるはずもない。真選組に入るのであれば江戸を守るために尽力しなければならない。ここは託児所では無いのだから。
『一週間。その間に何とかする』
唸る近藤を頷かせ、渋い顔を浮かべている土方に海は無理を言って納得してもらった。
『(とはいえ、基礎も何も無い奴を平隊士並にまでするには……)』
かなりの特訓が必要になる。それを朔夜が耐えられるかは……神のみぞ知る。
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