第52幕(裏)
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
人目を忍んで入るような建物に堂々と入る銀時に海は挙動不審な態度で建物の中をキョロキョロと見渡す。壁に貼り付けられたいくつもの部屋の写真を見て銀時はあれはこれはと呟いていた。
時折、海にこれはどう?と聞いてきたが、なんの話しをしているのかさっぱりわからず曖昧な返事をした。
カチッとボタンを押す音。そして小さな窓口からぬっと手が出てくる。その人から鍵を受け取ると、銀時は海の手を引いてエレベーターの方へと歩き出す。
「部屋適当に決めちまったけど大丈夫か?」
『部屋……?あ、あぁ、大丈夫……?』
部屋と言われてもなんの部屋かまではわからない。建物の意味は知っているが、こんなところ一度も入ったことはなかった。隊士たちが彼女を連れ込んだとか、キャバ嬢の子とどうのこうのっていうのは聞いていたが、まさか自分がここに入るとは思わなかった。
「おま、顔真っ赤じゃねぇか」
『だって……ここ……』
「うん。海が想像してる通りだけど」
ラブホテルなんてやることは一つだ。それを今から銀時とする。そう思ったら涙が出そうなくらい恥ずかしくなった。
「海?大丈夫か?」
『大丈夫じゃない。顔から火が出そう』
エレベーターに乗っている間、銀時の肩に顔を押し当てて顔を隠した。ぽんっと頭を撫でられて少し落ち着いてきたかと思った矢先、また恥ずかしさが甦る。
エレベーターの扉が開いた瞬間に男女のカップルと鉢合わせしたのだ。
きょとんとしているカップルと海たち。互いに無言のまま見つめ合う姿ははたから見たら異様な光景だろう。
「あ、すんませーん。通りまーす」
なんて銀時が気楽に言うもんだから、カップルも我に返って「すみません」と一言謝って道を開けてくれた。
廊下を歩いて突き当たりの部屋へと行き着くと銀時が持っていた鍵で錠を開けた。
扉を開けて「お先にどうぞ?」と海を先に入れる。大人しく部屋の中へと入り、銀時の方へと振り返れば視界は真っ暗になった。
「はぁ……海」
『な、なんだよ……』
「可愛い。なんでそんな可愛いんだよ……」
『はっ……はぁ!?』
「動揺しすぎだろ。取って食うわけじゃねぇんだからそんなに怯えるなよ……一々可愛いすぎて辛いっつーの」
『う、うるせぇな』
そんなことを言われたってどうしようもない。全てが初めての経験なのだから。
そういえばなんで銀時はあんなに慣れた手つきで操作していたのか。
『……なんでお前は普通なんだよ』
「ん?そりゃ……何回か来たことあるから?」
『あっそ』
二十後半ともなればそれなりに経験はあるだろう。銀時もさっきのカップルのように誰かを連れて入っていたのかもしれない。
別に自分には関係ない。
「誰かと一緒に来たわけじゃねぇから。仕事で何回か入ったことがあるんだよ。浮気調査とかで」
『仕事……?』
「おう。浮気調査ってめんどくせぇのよ。ホテルに入ってくところから、出てくところまで見ないといけねぇし。なんなら依頼主が部屋までついていけって言う時もあるしよ」
万事屋って本当になんでも仕事を請け負うんだなとぼーっとしながら思った。
誰かと一緒にホテルに入ったわけではない。そう言われ、モヤついていたものが取り払われる。
「海が気にするようなことはねぇよ」
『ん、』
部屋の中を案内すると言われ、大人しく銀時の後を追う。一見したところ普通のホテルのように見えた。
テレビをつけるまでは。
.