第31幕
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「おい、お前この船の船員アルか?ちょいと中、案内してもらおうか。頭ぶちぬかれたくなかったらな」
その頃、新八と別行動していた神楽が派手な着流しに身を包んでいる男の後頭部へと番傘の先を突きつけていた。悠然と立つ男は神楽の声など聞こえていないかのような態度で煙管を口に含み、夜空に浮かぶ月を眺め続けている。
「おい、聞いてんのか?」
「今日はまた随分とでけぇ月が出てるな。かぐや姫でも下りてきそうな夜だと思ったが……とんだじゃじゃ馬姫が下りてきたもんだ」
静かに語る男。未だに微動だにしない姿を見て神楽は動静を見守った。
この男は一体何者なのか。頭に銃口を向けられているのに一切の焦りも見せない。普通なら慌てて両手を上げて命乞いするのに。
恐怖心を一切見せない男になんとも言えない不気味さを感じる。だが、ここで逃げ出す訳にも行かない。もしかしたらここに桂がいるかもしれないのだ。このままこの男を人質にとって船内を見ればいい。
覚悟を決め、男を捕まえるべく番傘に力を込めた時、足元にキィン!と何かが飛んできた。男の仲間にバレたらしく、神楽目掛けて何度も銃が撃たれる。今の状態では男を捕まえることは出来ない。絶好のチャンスを逃してしまったことを後悔しつつ、その場から離れて、襲ってきた相手を探す。宵闇の中で目を凝らしていると、キラリと月の光に当たって反射するものが見えた。
神楽に向けて銃を構える女。その方向へと番傘の先を向ける。相手は飛び道具を使っているのだ。接近すれば一溜りもない。ならばと番傘に備わっている機能を使うことにした。
「貴様、何者だ?晋助さまを襲撃するとは絶対許さないッス!銃を下ろせ!この来島また子の早撃ちに勝てると思ってんスか!」
「また子、股見えてるヨ。シミつきパンツ丸見えネ」
「甘いな。注意をそらすつもりか?そんなん絶対ないもん!毎日取り替えてるもん!」
「いやいや、ついてるヨ。汚ぇなぁ。また子の股はシミだらけ」
「貴様!これ以上、晋助さまの前で侮辱することは許さないッス!晋助さま違うんス!ホント、毎日取り替えてますから、確認してください。これ……」
また子が"晋助"と呼んだ男の方へと目を向ける。
こちらから意識が逸れたのをいい事に、下からまた子のことを蹴りあげる。倒れ込む女を無視して一直線に船の奥へと走り出した。
だが、また新たな邪魔者によって進行出来ず立ち止まる。これだけの人間がいるのだ。きっとこの船は何かを隠しているのかもしれない。神楽は周りを取り囲む男たちを一人、また一人となぎ倒しながら前へと歩み続けた。
「ヅラ!どこアルかっー!」
迫り来る奴らを倒しながら神楽は必死に桂の名前を叫ぶ。やっと周りが静かになったと思った時、後ろの方から男の声が聞こえた。
「早速仕事だ。上手くやれよ」
何のことを言っているのかはわからない。でも、男の顔からして嫌な予感がする。
こういう時の勘は何故か外れない。
「海!どうしてここにいるアルか!?まさか助けに……」
進んで行った先にいたのは海だった。いつもの黒い上着は着ていないが、白いシャツに黒いズボン姿は紛れもなく海の服装。
ここまで助けに来てくれたのかと喜んだのも束の間。とてつもない殺気を海から浴びせられて神楽は足を止めた。
「海……?どうしたネ……寝ぼけてる場合じゃないヨ」
「海、そいつを捕まえろ」
後ろから聞こえてくる男の声。そちらへと顔を向けると、先程まで神楽が銃口を突きつけていた男が立っていた。とてつもなく嫌な笑みを浮かべて。
「海?嘘……でしょ?ねぇ、海!」
どうしたらいいか分からず狼狽える神楽に刀の切っ先が向けられる。何度も名前を呼んだが、海は無言で神楽を見ていた。
いつもの海じゃない。早くここから逃げなければ。そう思っても身体を自由に動かせなかった。刀を向けられたショックと、重たい威圧感のせいでその場から一歩も動けない。
「海、どうしちゃったアルか……!」
無表情の海からは何も感じ取れない。ただ、目の前にいる神楽を殺そうとしているのだけは確かだ。
刀が振り下ろされる間際に見えた海の瞳。いつも優しく神楽たちを見ていたその目から光が消えていたのが見えた。
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