第50幕
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……遅い。いくらなんでも遅すぎる。
海が風呂に入ってからかれこれ二時間経っている。一時間くらいまでは念入りに洗ってんだろうなぁなんて思いながらテレビを見ていた。それから三十分経って怪しく思ったが見に行くのを我慢した。だがもう流石に二時間は長すぎる。
「見に行くか……」
以前、服を置きに行った時にばったり出くわしたせいで痛い思いをした経験があるが、今回は海が悪い。人に要らぬ心配を掛けたヤツが悪い。
ソファから立ち上がって風呂場へと足を向けたとき嫌な考えが浮かんだ。自分が助けに行くまでの間、海は散々天人の相手をしていたのだろう。船でやっと見つけた時にあの独特な臭いを海は纏っていた。髪や身体に張り付いていた白濁のあと。
それは天人らに性的な行為を強要されていたことの証だ。そんなこと自分がされたら一体どうするか。
「あいつ……まさか!」
脱衣場の扉を乱暴に開けて風呂場の扉へと手をかける。うるさいぐらい早鐘を打つ胸を掴みながら勢いよく扉を開く。むわっと全身を包む蒸気。それが晴れた時に目に入った光景に時が止まったように思えた。
どくりと強く心臓が跳ね、上手く呼吸が出来ず息が詰まる。
浴槽の中で力なくもたれている海の姿。目を閉じてピクリとも動かない様に全てが真っ白になった。
「お、おい……海?海!!」
ぺちぺちと頬を叩くが反応はない。自分の顔がどんどん青ざめていく。貧血のときのように頭がくらりとするのを感じながら海の身体を浴槽から引きずり出した。不安と恐怖で足に力が入らず、海を抱えたままその場に座り込んだ。
「おい、嘘だろ?やっと帰ってきたんだぞ?ふざけんなよ……なんでそんなことしてんだよ!!」
ぐったりと自分の胸に倒れ込んだまま動かない海を強く抱きしめる。自分の頬を伝う水。海の温もりが失われぬようにきつく腕の中に閉じ込めた。
『……痛いんだけど』
「…………は?」
『だから痛いっての。つか、なんでここにいんだよ』
「海……?」
『え、なにその顔は。どうした?』
ぺたりと銀時の頬に手が触れる。閉じられていた瞼は開けられていて、漆黒の瞳がしっかりと自分見つめていた。
「……海が……死んだかと……」
『なんで死ぬんだよ。勝手に殺すな。最近まともに寝れてなかったからつい居眠りしただけだわ』
「ま、紛らわしいんだよバカヤロー!!!!!」
突然叫んだことによりビクリと海は身体を震わせる。何事かと目を丸くしている彼にガミガミと文句を言ったが、海は意味が分からないという顔を浮かべるだけだった。
『なんだよ、心配したのか?』
「当たり前だろうが!!」
『ばーか。お前残して死ねるわけねぇだろ』
仕方ねぇ奴だな、と微笑んだ海が銀時の目元へと触れ、何かを拭うように指先が動く。
『泣かせてごめんな。心配要らねぇから。だから泣くな』
「泣いてねぇよ。これは……あれだ。汗だ!ここ暑いんだよチクショー!」
『そういうことにしとく』
くすくす笑う海に自分も段々と安心して笑いが込み上げてきた。
海を抱き上げて脱衣場へと下ろし、自分も風呂場から出ようとしたら制止の声。
『そのまま入っちゃえよ。服濡れてるし……お湯も冷めちまうから』
「あー……だな」
『夕飯、食う?』
「あ、そういえば何も食ってねぇわ」
『じゃあ、その間に作っとく』
「頼む」
貸した着流しに腕を通して風呂場から去る海。その姿に安心して、自分も服を脱ぎ始めた。
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