第31幕
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「てめぇみたいな人殺しにヅラとアイツがやられるわけねぇだろ」
こんな奴に海がやられるわけがない。そう願いながら銀時は手にしている木刀を力強く掴む。
紅桜と海の行方を追ってここまで来たのは良かった。だが、またこの男に会うとまでは思っていなかった。そして海が行方不明になった原因が似蔵にあるということも。
「怒るなよ。悪かったと言っている。あぁ、そうだ……これを君に返しておこう」
そう言って似蔵は懐から何かを取り出して銀時の方へと投げつける。ふわりと舞ったそれは漆黒の服。
「銀さん……!それって……」
服だけなら違うと言い切れた。だが、その服から香る匂いは嘘をつかない。
「(海が使ってる……香の匂い……)」
「彼はとても強かったよ……紅桜を使っても勝てなかったからね」
「てめぇ……あいつに何しやがった……」
「俺は何もしてないさ……。ただ、彼のことを手に入れたいと思っていた人物に手を貸しただけだ」
「ふざけたこと言ってんじゃねぇ……海はどこにいる。答えろ」
「それは俺が答える義理はないねぇ」
喋る気は毛頭ない。似蔵は呆然としている銀時に笑みを深くした。大切な友人、いやそれ以上の存在の海を連れ去られたという事実に愕然としてる銀時に悦を感じて。
その顔に怒りが沸き上がる。話す気がないというならその気にさせればいい。怒りに任せて木刀を似蔵へと振りかざす。瞬時に似蔵の持つ妖刀によって受け止められたが、銀時は木刀を持つ手に力を込め続けた。
「おやおや、怖いねぇ。そんなにあの男が大事かい」
「うるせぇ……どこにいるか答えろ……」
「言っただろう。俺にそれを答える義理はないと」
「何度も言わせんじゃねぇよ!」
「それはこっちのセリフだよ」
不敵に笑った似蔵の腕に大量の管が這い回っていく。その異様な光景に目を疑った。刀鍛冶の鉄子に紅桜については教えられていたが、まさかここまでとは。
「(おいおい……こんなの刀でもなんでもねェよ)」
これはまるで生き物のようではないか。こんなのと海は戦ったというのか。
自分よりも強い海がこれの相手をした。しかも、似蔵の言い方では紅桜を使っても海は優勢だった。
ならなぜ海はコイツらの手に落ちた?
「閃光はこの状態の俺でさえも遥かに強かったよ……あれは本当にいい男だ……もう一度殺り合いたいくらいだね」
「二度とてめぇなんかと殺らせるか。大体、お前はアイツに負けてんだろうが。そんなやつを海が相手すっかよ」
「そうさなァ。でも、今やコイツは閃光の力も取り込んだ。そんな刀相手に勝てると思うかい?」
似蔵の脇腹目掛けて銀時が木刀を突くが、易々と避けられる。その避け方に見覚えのあった銀時はすぐさま後ろへと振り返って木刀を盾にした。
「……っ!」
あの避け方は海がよくやるもの。力どころか海の動きさえも覚えたというのか。
「速い……速いな……閃光のあの素早さを習得したということか、紅桜よ」
うっとりと紅桜を見つめる似蔵。
紅桜の剣先には血が付着しており、それはどこかを斬られたことを意味する。
「あっぶねぇな……」
グイッと頬を手の甲で拭うとじわりと痛み、たらりと左頬を血が伝う。
紅桜は確実に海の戦闘技術を学んでいる。刀が技術を学ぶなどおかしな話だが。
ただ、紅桜の操作に似蔵が追いついていないのが幸いか。それとも、海の戦技をずっと見ていた己だから避けることが出来たのか。
「後者だったらいいんだけどなぁ」
海を熟知しているとまではいかないが、これでも海と何度も喧嘩しては負けてきた身だ。殴り合いも、竹刀を使った喧嘩も。だからこそ紅桜のあの速さにも追いつく。
速さについてはまだ何とか出来るレベル。だが、紅桜の力量には勝てない。銀時は橋の下へと追いやられた挙句、木刀を折られてしまっては身を守る術がない。
「銀さん……銀さん!!!」
どんっと腹を殴られたかのような衝撃。そして後から来たのは激痛。呻きそうになった声を抑え、唇をかみ締めた。視線を下へと向けると、己の腹部に深々と突き刺さっている紅桜。
「弱いな。桂といい白夜叉といい軟弱になったものだ。お前らではなくこの俺があの人の隣にいたならば……閃光があの人の隣いたならば!この世界はこんなにはならなかったはずだ」
「勝手なこと……抜かしてんじゃねぇよ」
「お前には閃光は不釣り合いだ。あの人のそばにいてこそあの速さは輝く。今頃、あの人の隣で元の牙を戻しているだろうよ」
「……せ……」
「うん?」
「返せ……あいつはッ!……海はてめぇらの玩具なんかじゃねェェ!!」
これで海の居場所がわかった。似蔵がこれでもかという程、執着している相手。かつて、肩を並べて戦った男。
銀時と同じように海を大切にし、それ以上の感情を抱いているヤツ。
「(あのチビ……)」
海は高杉に連れていかれた。それならば海が行方不明になってしまった理由もわかる。
きっと、逃げられなかったのだろう。
遠のきそうな意識の中、必死に似蔵の持つ刀を掴んだ。橋の上から新八が刀を手にし降りてくる。新八の刃は似蔵の腕を斬り飛ばした。
この騒ぎを聞き付けた役人達がぞろぞろと駆けつけてきてくれたおかげで、似蔵は銀時たちから身を引いて逃げるように立ち去って行った。
「銀さん!」
「へ……へへ……新八……お前はやればできる子だと思ってたよ」
深手を負い、血を失い過ぎたせいか身体に力が入らず、その場に崩れ落ちるようにして倒れた。新八が泣きそうな顔で声をかけてきていたが、それに反応している余裕もない。
そんな中でも海の上着だけは離さないように抱きしめた。
「海……お前……どこにいんだよ……」
「銀さん?銀さん!!!」
もう意識を保っていられない。次、目が覚めたら必ず海を助けに行く。そう誓ってゆっくりと目を閉じた。
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